近年のデジタル化の進展には著しいものがあり,どこにいてもWebサイトでデータベースを検索し,パソコン上で貴重資料を閲覧できるようになってきました。もちろん,閲覧できる資料はまだまだ限られてはいますが,そのためだけにわざわざ調査に出かけなくてもよくなりました。とくに,われわれが研究対象とする古地図・絵図の中には閲覧制限がかかっているものもあり,そうした絵図の画像データをネット上で「発見」したときには,思わず時間を忘れて見入ってしまうことがあります。Web公開により,一般の方がこうした貴重資料を閲覧・利用できるようになった点も画期的です。それゆえ,貴重資料のデジタル化や情報公開は今後も進むものと思われます。
ただし,古地図や絵図については,画像データは公開されているものの,画像が拡大できず,古地図に記載されている文字や記号などが判読できない場合もあり,そうした際には逆にフラストレーションが溜まることになります。
徳島大学附属図書館には約200点の近世古地図・絵図コレクションがあり,そのうち約40点について高精細デジタルアーカイブを公開しています。この中には,伊能忠敬作成の日本東半部「沿海地図」や日本西半部「大日本沿海図稿」,阿波国・淡路国の幕府撰国絵図,文化文政期(1804~30年)に徳島藩が作成した実測分間絵図などの貴重な古地図資料も含まれます。附属図書館の高精細デジタルアーカイブでは,これらの古地図について300~400dpiの画像データを提供しています。400dpiというのは,古地図の実寸に対して縦4倍,横4倍,面積16倍で作成した大きさの画像データを指します。
徳島大学附属図書館では,平成8年度より所蔵する近世古地図・絵図の高精細画像データ作成に着手し,平成10・11年度には文科省科学研究費研究成果公開促進費を受けて,これらの画像データを作成してきました。大型の国絵図や精緻な伊能図については約2GB(ギガバイト)容量のデジタルデータを作成しましたが,当時はDVDもなかったことから,データはパソコンのハードディスクに直接保存し,それらを館内閲覧に提供していました。平成20年度からは高速ブラウジングソフトを用いてネット配信していますが,こうした大容量データの公開も全国的に早かったといえます。その後,古地図・絵図を多数所蔵する国立国会図書館や国立公文書館をはじめ,各地の大学や公共図書館・博物館等でも高精細画像データのWeb配信が行われるようになってきました。その点で,徳島大学附属図書館の近世古地図・絵図高精細デジタルアーカイブは,パイオニア的な役割を果たしたといえます。
徳島大学附属図書館ではもう一つ,「伊能図学習システム」という古地図サイトも平成27年2月より公開しています。これは,公益財団法人図書館振興財団の助成を受けて作成した伊能図4点の800dpi超高精細画像データを公開しているページです。400dpiの画像データでは伊能図に開けられた針穴が黒ずんだ点としか見えないのに対して,バックライト撮影した800dpiの画像データでは0.2mm大の伊能図の針穴をはっきりと確認することができます。伊能図は「道線法」という測量に基づいて作成されていることから,これらの針穴と針穴を結ぶ測線は日本列島の形状を示すことになります。伊能図のような精度の極めて高い古地図の解析には,こうした超高精細画像データが不可欠になりますが,こうした超高精細画像を通して,1mm以下の間隔で針穴がいくつも開けられた製図作業の緻密さに改めて驚かされるばかりです。伊能図の作成に心血を注いだ伊能忠敬らの息づかいが伝わってきます。
現在のところ,800dpi超高精細画像データの古地図をネット公開しているのは,全国でも徳島大学附属図書館だけではないかと思われます。この点でも,徳島大学の先進的な取組は評価されます。ぜひ,徳島大学附属図書館の下記のサイトにアクセスしてみてください。
●近世古地図・絵図コレクション高精細デジタルアーカイブ
→ http://www.lib.tokushima-u.ac.jp/~archive/
●伊能図学習システム