【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第149号
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○巻頭エッセイ(1)

大学的「読書のススメ」
総合科学部教授 依岡隆児

2016年の大学生協連「大学生活実態調査」によると,学生の二人に一人弱がまったく本を読んでいません。1日の読書時間をみると,0分が45.2%で,前年比で4.3ポイント上がっています。さらに『毎日新聞』が毎年行っている「読書世論調査」(2016年版)によると,年代別の読書率(ふだん読書をする人の割合)では,10歳代後半と20歳代がともに50%で,70歳代以上についで最も低いという結果が出ています。もちろんこれらは別々の調査なので,直接比較はできないのですが,10歳代後半の若者が受験で読書から離れ,大学に入ってからもそのまま本を読まないでいることは十分,推測されます。

大学では専門性が増すと否応なく本や論文を読まなくてはならなくなりますが,それまでの期間に自由に幅広い読書をすることで知識を増やし自分なりの見識を養い,専門を深めていくはずの学生が,本を読まなくなっているのです。

では,なぜ学生は読書しないのでしょうか。多忙である,情報はスマホで調べるので読書する意味がわからない,手間がかかる,他にやることがあり読書の優先順位が低い,といったことが原因として挙げられるでしょう。一方で,趣味としての読書にとどまらず,大学では読書が学問をするために重要であることは言うまでもありません。とはいえ,「読め読め!」と強制するのは大人気ないし,かえってそれは逆効果でもあります。そこで私は,大学における読書啓発は「北風と太陽」のおとぎ話でいえば,「北風」ではなく「太陽」作戦でいくべきだと,考えます。

「やれやれ!」と言ったら,ますます頑なにやらなくなる。むしろ「やるな!」と言った方がやりたくなる。それが人間というものではないでしょうか。本が身近にある環境で,本のことを話す人と付き合っていれば,いつしか本を手に取りたくなる,自分からはまず手に取らない本も読んでみたくなる。そういう雰囲気があることが大学では,むしろ大切でしょう。こうした場があれば,切磋琢磨しながらお互いのことを深く知るようにもなる。そこにはおのずと温かい空気が通い始めているでしょう。大学には,そういう「太陽」であったまるように広がる読書交流の場を作りたいものです。

本を読めと強制しても実りある読書をさせることはできないが,このような本を読むための環境を作ることはできます。たとえば,ビブリオバトルという書評合戦は,本を通して人を知り,人を通して本を知るというキャッチフレーズにあるように,読書環境を作る仕掛けとして注目されています。参加者が順番に5分間,お気に入りの本を紹介して,その後2~3分間の質疑応答の時間を設けます。そうして,全員がこの発表と質疑をし終えてから,参加者相互で一番読みたくなった本を選ぶというものです。大学発祥の,ゲーム感覚で楽しみながら行う読書活動です。徳島大学でも4年前から行われていて,サポート系の学生サークルとして「阿波ビブリオバトルサポーター」もその普及活動に励んでいます。

「近頃の学生は本を読まない」といった紋切型の言い方はしたくありませんし,私の周りの学生を見ているかぎりでは,むしろ「近頃の学生」の方が以前の学生より読むようになったようにも思えます。みんなに一様に本を読ませようとか,読みたくもない人に無理やり読ませようとするといった,やみくもな勧め方ではなく,大学らしく強制せず,読書仲間が自然と集い,知的刺激を与え合いながら,おのずから読みたくなるといった,読む環境を作る工夫が求められているのではないでしょうか。


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