【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第135号
メールマガジン「すだち」第135号本文へ戻る


○学長からのメッセージ

Singularity Universityから学ぶ
徳島大学を飛躍的に発展させる方法について
野地澄晴

国立大学法人を運営するための運営費交付金が、総ての国立大学で、法人化後に毎年1%削減されてきた。徳島大学においては、12年間で約40億円減少し、2015年度は約116億円になっている。もちろん、様々な外部資金により、多少はリカバーされているが、減少分を補えるほどではない。実際、電子ジャーナルの購入にも支障をきたすことになってきている。さらに、徳島大学も人件費削減に向かうしかない状況である。国の財政状況や少子化の状況から判断して、国からの交付金が増加することは期待できない。従って、現在の窮地を脱する方法は、外部資金を自助努力により増加するしかないと考えている。

それでは、どのような自助努力があるのであろうか?もちろん、科学研究費補助金をはじめ、様々な公募型の外部資金に応募して、資金を獲得する方法が王道ではあるが、どの大学の研究者も状況は同じなので、競争率は高く、非常に採択率を高くするのは困難であることも事実である。次に期待したいのが、徳島大学に帰属する特許などをライセンスして、特許料による収入を増加する方法である。実際、四国TLOが中心となって、技術移転活動を行っており、成果は上がっているが、実際に大学の収入増になるには、まだ時間が必要である。自助努力といっても、効果的に大学の収入を増加させる方法は少ないのである。今のままでは人件費を削減することが窮余の策となるが、大学の教職員は、大学の最も貴重な財産であることから、人員の削減だけは何とか避けたい。


● 「シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法」について

大学における自助努力には限界があることから、財源を確保するためには、大学外に財源を求めるしかなく、大学発のベンチャー企業を起業するしか方法はないであろう。大学発ベンチャー企業の定義は、「大学の研究者、学生等が兼業等により事業活動を行い創業する企業」である。しかし、問題はベンチャー企業の成功率の低さである。その成功率は0.3%とのデータもあり、実際、成功事例は少ないのが現状である。その原因はある程度は分析されているが、単純に解決できないのも事実である。このような困難な状況において、何とか解決のヒントを得たいと思い、これまではあまり縁のなかった経営やビジネスの分野の本が並ぶ棚を最近は頻繁に覗いていた。ある日、眼にとまった本があった。サリム・イスマイルら著の「シンギュラリティ大学が教える飛躍する方法」である。副題に「ビジネスを指数関数的に急成長させる」と書いてある。まずは、「シンギュラリティ大学」とは何なのか?という疑問が生じた。その答えは、ホームページに記載されており、“What is Singularity University?:Singularity University is a benefit corporation that provides educational programs, innovative partnerships and a startup accelerator to help individuals, businesses, institutions, investors, NGOs and governments understand cutting-edge technologies, and how to utilize these technologies to positively impact billions of people.”である。この大学は「財団」であるが、先進的な技術とそれを利用した企業の発展について、講義等をおこなっている。その内容の一部がこの本に掲載されている。「どんなテクノロジーでも、デジタル化されると潜在的な成長のフェーズに入り、既存技術からの破壊的な変換、非物質化、非収益化、民主化が生じる」ことを指摘している。この本では、一般的な企業と比べて100倍の速さで成長し、成功している企業、例えば「ユニコーン企業」と称される会社評価額10億ドル(1200億円)以上のベンチャー企業を分析し、飛躍的に発展する企業はどのような要素が必要であり、何を重視すれば良いかが書かれている。ちなみに、ユニコーン企業として有名なのは、タクシー配車サービスの「Uber(ウーバー)」、宿泊シェアサイトの「Airbnb(エアビーアンドビー)」、スマホなどのネット関連デバイスを製造する「Xiaomi(シャオミー)」、写真・動画シェアの「Snapchat(スナップチャット)」などがある。いずれも、ICTを利用した企業である。もし、徳島大学発のベンチャー企業を考えるのであれば、これは非常に参考になると思っている。詳細を解説することは、スペースの関係でできないが、興味ある読者は是非、本を読んでみていただきたい。


● ベンチャー大学を“起業”しよう

「シンギュラリティ大学」の内容も衝撃であるが、その「大学」についても衝撃的な発想である。ウィキペディアによると、「ユニバーシティ(大学)と名が付いているが、独自の校舎もなく学位の授与もない」大学が、非常に人気があり、「初回のプログラムには定員40人のところ、1,200人の応募があった」そうである。徳島大学もこのような「大学」を“起業”すべきであろう。「シンギュラリティ大学」の教えから、様々にデジタル化された技術やデジタル化する技術を徳島大学が開発し、それを利用してユニコーン企業を生むことが理想である。そのために、現在考えているシステムは、クラウドファンディングとクラウドソーシングである。クラウドとは群衆のことで、そこに知恵があると考え、ICT技術により、研究資金を集めたり、共同研究者を探したりするアカデミックなシステムを構築することを考えている。このシステムを徳島大学発のベンチャー大学が中心に開発し、運用することが「地域から世界を活性化する大学」として、徳島大学が発展することになるであろう。大学と密接に連携した、社会の発展に貢献する大学発ベンチャー大学を“起業”し、その収益の一部で大学の財政もサポートする仕組みを構築する必要があると考えている。

前述の本に紹介されていたのだが、スタートアップ(起業)において、必要な要素を解析した本があることを知った。それは、エリック・リース著の「リーン・スタートアップ」である。「ムダの無い起業」と訳されているが、企業を「小さく生んで、大きく育てる」方法が記載してある。この方法により、起業のリスクをかなり軽減できそうである。もちろん、多くの困難に直面するであろうが、それを乗り切ることが、徳島大学を飛躍的に発展させる方法ではないかと考えている。皆さん、ベンチャー大学の“起業”に参加しませんか!



メールマガジン「すだち」第135号本文へ戻る