【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第130号
メールマガジン「すだち」第130号本文へ戻る


○M課長の図書館俳句散歩道 (もみじ)

俳句で秋の季語と言えば,真っ先に思い浮かぶのは,「紅葉」です。

晩秋の寒さや霜にあうことにより,落葉樹の葉は赤く黄色く色づきます。その現象や葉のことをいいます。その名の由来ですが,もともとは,楓の紅葉の色が赤く染めた絹によく似ており,その絹のことを紅絹(もみ)といいます。木々の葉がまるで「もみ」に染まるように紅くなっていく様子を染色作業である「もみ出ず」から音韻転化して「もみじ」と言われるようになりました。その他,奈良時代以前に使われていた上代語の「紅葉する」という意味の「もみつ」から時代を経て変化し,定着した言葉であるという説もあります。


「紅葉」は,季題の頂点をなす最重要の題目として「五箇の景物」の一つで,勅撰和歌集や連歌の時代から江戸の俳諧にいたるまで,その扱いは特別に重視されています。 ちなみに「五箇の景物」とは,『花,時鳥,月,雪,紅葉』をいい,日本の自然現象や人事・風俗において,自然と人間の交感を美的に発想させる語彙です。


小倉山 峰のもみぢ葉 心あらば 今ひとたびの みゆき待たなむ     貞信公

見る人も なくて散りぬる おく山の 紅葉は夜の 錦なりけり     紀貫之


山くれて 紅葉の朱を うばひけり        与謝蕪村


錦秋の京都に行ってみたくなりますね。


○初紅葉

山ふさぐ こなたおもてや 初紅葉        室井其角


宝井其角は,芭蕉の門下で,芭門十哲の第一の門弟といわれています。

其角の逸話の一つに,赤穂浪士討ち入り前夜,四十七士の一人の大高源吾と会い,はなむけに「年の瀬や 水の流れと 人の身は」と詠んでいます。


○薄紅葉

色づくや 豆腐に落ちて 薄紅葉         松尾芭蕉

まだ色づいているかどうかも知らないでいた木の葉が,真っ白い豆腐に落ちてきたことで,薄紅葉になっていたことが知れたという意味です。


○照葉・照紅葉

から堀の 中に道ある 照葉かな         与謝蕪村

晴れた秋の日を受けて鮮やかに照り輝いている紅葉の道を踏みしめたくなります。


○桜紅葉

早咲きの 得てを桜の 紅葉かな           内藤丈草

内藤丈草は,尾張犬山藩士でしたが病気から上洛,向井去来と交わり,芭蕉の門に入りました。

サクラは,いち早く秋の冷気を感じとるかのように,他の木に先がけて紅葉を始め,他の木の紅葉が始まる頃には,すでに散ってしまっています。


○雑木紅葉

しばらくは 雑木紅葉の 中を行く          高浜虚子

雑木は,野山に群生している多くの木々の総称です。名の知られていない木が,楓や桐などの名のある木々といっしょに秋の山を彩ります。


○柿紅葉

渋柿も 紅葉しにけり 朝寝坊            小林一茶

晩秋になって,柿の葉が紅葉します。夕日に柿紅葉が映えている光景は,日本の美しい秋の風景です。


○銀杏紅葉

とある日の 銀杏紅葉の 遠眺め           久保田万太郎

大樹のてっぺんから一面に広がる黄葉は,まさに神秘的です。


こんじきの ちひさき鳥の かたちして 銀杏散るなり 夕日のおかに

教科書教材として,使われている与謝野晶子の名歌です。


○紅葉かつ散る

一枚の 紅葉且つ散る 静かさよ             高浜虚子

俳句独特の用語で,紅葉しながら,かつ散ることをいいます。


その他にも,蔦紅葉,柞紅葉,錦木紅葉,草紅葉,水草紅葉,萍紅葉,菱紅葉,満天星紅葉,合歓紅葉,葡萄紅葉,梅紅葉,柏紅葉など,たくさんの季語があります。


深まりゆく秋,読書の秋,図書館の窓から紅葉を見ながら,ゆったりとのんびりと思索の森を歩いてみませんか。


図書館の 窓に舞い散る 紅葉かな


メールマガジン「すだち」第130号本文へ戻る