【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第125号
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○「知的感動ライブラリー」(97)

ヨハン・シュトラウスⅡ世のオペレッタ『こうもり』
総合科学部教授 石川榮作

ヨハン・シュトラウスⅡ世のオペレッタ『こうもり』の原作はアンリ・メイヤックとリュドヴィク・アレヴィの喜劇『レヴェイヨン(大晦日の夜の大騒ぎ)』(1872年)である。この作品をアン・デア・ウィーン劇場の支配人マックス・シュタイナーは、ウィーンの聴衆とヨハン・シュトラウスⅡ世に合うよう、台本作家のカール・ハフナーとリヒャルト・ジュネにドイツ語のオペレッタ用台本に手直してくれるように依頼した。こうして出来上がったオペレッタ用台本を手にしたヨハン・シュトラウスⅡ世は、一気に作曲に取り掛かって、わずか6週間で大部分を作曲してしまったとも言われている。そしてこの作品は1874年4月5日にアン・デア・ウィーン劇場で初演され、大成功を収めたのである。内容は大晦日から元日にかけてのドタバタ喜歌劇で、とりわけドイツ語圏では年末年始恒例の上演作品となっている。

以下、この作品の展開を順に辿りながら、聴きどころ・見どころなどを紹介していくことにしよう。


第一幕

演奏会でもひんぱんに単独で演奏される優雅で軽快なメロディの有名な序曲が終わると、第一幕の舞台はウィーン近郊の温泉町に住む銀行家ガブリエル・フォン・アイゼンシュタインの邸宅の広間である。家の外から男の声で、かつての恋人を逃げた小鳩になぞらえて、遠ざかって行った恋人に戻って来てほしいと訴える求愛の歌が聞こえてくる。この家の奥方ロザリンデの名前が呼ばれているところからすると、外の男は声楽教師で、ロザリンデのかつての恋人アルフレートのようである。

その広間に小間使いアデーレが姿を現して、バレリーナの姉イーダから来た手紙を読む。それは今夜ロシアの若い貴族オルロフスキー公爵の邸宅で夜会が行われるので、奥様のドレスを借りてそこへ行かないかとの誘いの手紙である。小間使いの仕事に明け暮れのアデーレは、何としてもその夜会へ行きたいという思いを強くしているところへ、また外から男の歌う声が聞こえてくる。アデーレは外に様子を見に出かける。

その求愛の歌声を耳にして、その家の女主人ロザリンデが広間にやって来て、かつての恋人の求愛に心を惑わされて、鎮痛剤を飲んで寝椅子に横たわる。外の様子を見に行っていた小間使いアデーレが戻って来て、女主人ロザリンデがいるのに気づくと、アデーレは夜会へ是非とも行きたいと思って、口実を考え出して、「病気の伯母を見舞いたいから」と嘘をついて、今夜の外出を願い出た。しかし、ロザリンデは、「今夜は旦那様が拘置所に行くことになっているので、とても無理だ」とはねつけてしまう。主人のアイゼンシュタインは税務署員に平手打ちをくらわしたことから、5日間の禁固刑に処せられる羽目となってしまったのである。

ロザリンデから外出の許可をもらえなかったアデーレは、どうして小間使いになってしまったのかと現在のわが身を嘆きながらそこを退く。ロザリンデが一人になると、外からアルフレートがずかずかと入って来る。ロザリンデはアルフレートが嫌いというわけではないが、今や結婚している身としてはかつての恋人を追い返すほかはない。もうすぐ主人が荷物を取りに帰って来るので、「ここから出て行ってほしい」と言う。これに対してアルフレートは「君が一人のときにまた来てもいいと誓ってくれたら、今は帰ることにするが、誓わないならここに居すわる」と言い出す。ロザリンデが仕方なしにそれを約束すると、アルフレートは歌を歌いながら走り去って行く。

かつての恋人の歌を聞いて決心が鈍ってしまったロザリンデは、鎮痛剤をもう1錠飲んで気を鎮めようとしているところへ、この家の主人で、銀行家のアイゼンシュタインが奇妙な弁護士ブリントを連れて戻って来る。弁護士とはどうやら何か揉 (も) めているようである。そこで主人と奥方と弁護士の三重唱が始まるが、その中で弁護士ブリントがヘマをやらかして、アイゼンシュタインの禁固刑が5日間から8日間に延びてしまったようである。怒るアイゼンシュタインと、弁解しながら言い返す弁護士ブリント、そして二人の間をとりなそうとする奥方ロザリンデの三重唱は、実に巧みにおもしろく、おかしく展開されて、最初の聴きどころであろう。

弁護士ブリントを追い返して、夫婦二人きりになると、アイゼンシュタインは拘留期間が3日延びたことを嘆き、それに対して妻ロザリンデは「留守の間、寂しくなるわ」と歌いながら、主人を慰める。そこへまた弁護士ブリントが戻って来て、控訴することを提案し、今度こそ勝訴することを確約するものの、能なしの弁護士としてもはや信用されずに再度追い返される。先程の三重唱に続いて、ここの三重唱も聴きどころである。

弁護士ブリントが去って行って、夫婦が弁護士のヘマでこんなことになったことを嘆いたあと、空腹を覚えたアイゼンシュタインは小間使いのアデーレを呼び寄せて、金鹿亭へ食事を注文するように言いつけたところへ、アイゼンシュタインの友人のファルケ博士がやって来る。ロザリンデが主人の服を用意するためにそこを立ち去ると、ファルケ博士は今夜ロシアの若い貴族オルロフスキーの邸宅で行われる夜会に行こうと、アイゼンシュタインを誘う。今夜は刑に服することになっているため、アイゼンシュタインは最初はその気にはなれなかったが、若手のバレリーナたちもやって来ることを聞き知ると、その誘いに乗る。実はこれが「こうもりの復讐」の始まりなのであるが、アイゼンシュタインはもちろんそうとは知らない。アイゼンシュタインは刑に服する前に、一晩を陽気に楽しもうと決意する。そのときファルケ博士がアイゼンシュタインを誘う歌も、軽快で楽しい。妻のロザリンデにはもちろん内緒にしたうえで、フランスのルナール侯爵に扮して夜会に行くということで、アイゼンシュタインも浮き浮きした気持ちになってくる。ここでアイゼンシュタインとファルケ博士が喜びはしゃぎながら歌う二重唱も、陽気で楽しいことこのうえない。

そうして二人がはしゃいでいるところへ、奥方のロザリンデが主人の服を持って来るが、ファルケ博士はそれを見て、そんな服では凶悪犯と同室にされて、ひどい目に会うに違いないと言って、正装することを勧めてから帰って行く。アイゼンシュタインはその友人の勧めに従って、礼服を着用するためにそこを退いて行く。

妻ロザリンデは牢獄に行くのを喜んでいる夫を異常だと思いつつも、アルフレートと逢引きする機会が訪れたことに気持ちを弾ませる。そこへ小間使いのアデーレが金鹿亭から食事を運んで来たので、奥方ロザリンデは彼女に今夜伯母さんの見舞いに行くことを許可する。外出許可を得たアデーレが喜んでいるところへ、アイゼンシュタインが正装して現れて、そこで三重唱が歌われるが、この場面が第一幕の圧巻であろう。妻ロザリンデは夫が8日間もいないことを嘆けば、主人アイゼンシュタインもそれに合わせてしばしの別れを惜しむ。この二人に加わるように小間使いのアデーレも歌い出すが、序曲のメロディに乗せて、それぞれの建前と本音の気持ちが交錯するすばらしい三重唱となっている。聴きどころであることは、言うまでもあるまい。

こうして主人アイゼンシュタインも小間使いアデーレも出かけて行くと、妻ロザリンデは一人きりとなり、やがて先程のアルフレートがやって来る。彼は主人アイゼンシュタインの部屋着を着て、つくろぎ、グラスを片手に「ままならぬことは忘れて、ともに飲み干そう」と歌いながら、かつての恋人ロザリンデに言い寄る。彼女の方も彼の歌声には決心も揺らいでしまいそうである。二人で「ままならぬことは忘れて、ともに飲み干そう」と歌う二重唱も聴きどころであろう。

こうして二人が歌い終えたところへ、刑務所長フランクが禁固刑のアイゼンシュタインを迎えに来た。アルフレートは「自分はアイゼンシュタインではない」と言い張るが、ロザリンデにとってはまずいことになったので、アルフレートに今だけは主人になりすますようにと頼む。この頼みにアルフレートの方も、束の間であれ、ロザリンデの夫になれるので大喜びである。二人は刑務所長フランクの前で夫婦気取りを装うのである。この場面で刑務所長フランクも加わっての三重唱もおもしろいことこのうえない。アルフレートは束の間、ロザリンデの夫の役目を果たすが、そのあと刑務所長フランクに連れられて、拘置所に向かう。愉快な三重唱が終わったところで、第一幕の幕が降りる。


第二幕

活力にあふれた前奏で幕が開くと、第二場の舞台はロシアの若い貴族オルロフスキー邸の大広間である。今夜の夜会にすでにたくさんの客人が招待されて、楽しく合唱している。こういう合唱もオペレッタの醍醐味である。

小間使いのアデーレも奥方の衣裳を拝借して来ているが、姉イーダと会って話しているうちに、姉イーダは妹アデーレに手紙を書いた覚えはないという。姉イーダは「手紙は誰かの悪戯 (いたずら) よ」と言いながらも、小間使いの妹アデーレには「あなたはこの場には相応しくない」と言うので、アデーレも「お姉さんだってただの踊り子じゃないの」と言い返している。そこへ今夜の夜会のホスト役のオルロフスキー公爵が姿を見せたので、姉イーダは妹アデーレを女優オルガとして紹介することにして、一旦そこを退いて行く。

ファルケ博士に伴われて登場したオルロフスキー公爵は、「自分は笑いというものを忘れてしまい、何もかも退屈でたまらない」と口にするので、ファルケ博士は殿下のために今夜は「こうもりの復讐」という余興劇を用意していると伝える。そこへ姉イーダに伴われて、妹アデーレは女優オルガとしてオルロフスキー公爵に紹介される。やがてアイゼンシュタインがフランスのルナール侯爵として姿を現し、ファルケ博士によってオルロフスキー公爵に紹介される。ここで客人たちを出迎えるオルロフスキー公爵の男声か女声か分からない独特な歌も聴きどころである。そうしているうちにアイゼンシュタインは小間使いのアデーレが妻の衣裳を身に着けてこの夜会に来ているのに出くわして、「私の小間使いにそっくりだ」と言ってしまう。これに怒りを示して、アデーレは「自分は小間使いではありません」と証明するために、コロラトゥーラで見事な歌を歌う。このアデーレの扮する女優オルガの歌も聴き逃してはならないであろう。見事な歌で小間使いでないと悟ったルナール侯爵ことアイゼンシュタインは、皆の前で失礼を働いたことを詫びる。

次に姿を現すのが、フランスのシュヴァリエ・ド・シャグランに扮した刑務所長のフランクである。フランス人ということで、アイゼンシュタインとフランクの間でフランス語で会話が交わされるが、それはフランス語の単語を並べただけの会話で、その内容はとにかく滅茶苦茶のため観客を楽しませる場面である。アイゼンシュタインとフランクは意気投合してしまい、仲良くなる。

最後に到着するのが、ハンガリーの伯爵夫人に扮したロザリンデであるが、彼女は仮面を被っている。たちまちその女性に興味を示したルナール侯爵ことアイゼンシュタインは、それが自分の妻ロザリンデだと気づくこともなく、彼女を口説き始める。小道具に自慢の懐中時計を使って口説くのであるが、逆に時計を彼女によってまきあげられてしまう。ロザリンデがのちに夫の浮気の証拠にするためにその懐中時計をまきあげる一方で、妻とも知らずにアイゼンシュタインがその女性に懐中時計を返してほしいと頼むこの場面は、滑稽極まりなく、ここでの二人の歌と演技は聴きどころであり、また見どころでもあろう。

そのうちロザリンデは仮面を外すようにと客人たちから請われるが、ホスト役のオルロフスキー公爵は「それは約束違反だ」と言って、ご夫人の自由に任せる。それでもロザリンデは「本当にハンガリーの伯爵夫人なのか」と疑われてしまい、それを証明するために、ハンガリーの舞曲チャルダーシュを歌う。これも聴きどころであろう。ロザリンデは見事に歌い上げて、仮面を取らずに、本物のハンガリー伯爵夫人として、人々から称賛されるのである。

このあと夕食も始まり、その席でオルロフスキー公爵から余興を披露するように請われて、ルナール侯爵ことアイゼンシュタインは数年前にあった滑稽な話を皆に話して聞かせることになる。陽気になって彼が話すところによると、シェーンブルン宮殿での舞踏会でのこと、自分は「蝶々」に仮装し、ファルケは「こうもり」に仮装していたが、帰りがけには少々酩酊(めいてい)して寝入っていたファルケを「こうもり」のままで市場に置き去りにして帰って行ったので、翌朝、ファルケ博士は人々の者笑いの種になって帰宅したという。それ以来、彼は「こうもり博士」と呼ばれているというのである。この夜会でもファルケ博士は笑いものの種となっているが、実は今夜の夜会こそファルケ博士による「こうもりの復讐」なのである。オルロフスキー公爵もこれから繰り広げられるその復讐劇を楽しみにしているようである。

そのオルロフスキーの音頭で、皆はシャンパンを手にして、乾杯しながら、第二幕のフィナーレの歌を歌い、夜会は佳境に入っていく。この場面で皆が歌い出す歌が最大の聴きどころであるとともに、そのあと皆が一緒に踊り出すワルツも、文句なしに見どころであろう。これぞヨハン・シュトラウスⅡ世のオペレッタの醍醐味である。こうして序曲のメロディとともにワルツも最大の盛り上がりを見せる。楽しいワルツに酔いしれているうちに、時計も朝の6時を知らせたので、各人たちはびっくりして大急ぎで引き上げて行く準備をしているところで、第二幕の幕が降りる。陽気で楽しくて感動のフィナーレである。


第三幕

軽快な間奏曲が奏でられたあと、幕が上がると、第三幕の舞台は刑務所の事務室である。牢屋の中からアルフレートが例の逃げた小鳩の歌を歌っている声が聞こえてくると、これまた酔っぱらっている看守フロッシュが「うるさい」と怒鳴りながら、事務室に入って来る。看守フロッシュは歌を歌わずに、台詞を語るだけの役であるが、このオペレッタの上演会場に合わせたかたちで台詞を口にするので、そのおもしろい台詞がまたたいへん楽しみである。牢屋の中でアルフレートが歌を歌うので、看守フロッシュが「ここは歌劇場ではなく、厳粛な場所だ。ここは歌う場所ではなく、ぼやく場所だ」という台詞もおもしろい。また彼がカレンダーをめくってみると、12月32日の文字が目に入ってきて、「もうこんな日になってしまったのか」とも言うので、これまた観客を大いに笑わせる。このようにユーモアにあふれた場面であり、見どころである。

看守フロッシュが見回りに出掛けたところで、入れ違いに刑務所長フランクが酩酊状態の姿で戻って来る。よろよろしながら刑務所の服に着替えても、まだ夜会の雰囲気からは抜け出せないようである。事務机に腰を下ろして、新聞を読みながら、そのまま寝入ってしまう。そこへ看守フロッシュが戻って来て、刑務所長を起こして、12号室の囚人が弁護士を欲しがっていることを報告する。

そうしているところへ玄関で呼び鈴が鳴って、看守フロッシュが取次に出ると、やって来たのは、アイゼンシュタイン家の小間使いのアデーレ(女優オルガ)とその姉イーダである。フランク所長は看守フロッシュを退かせてから、二人の話を聞くと、アデーレは女優になりたいので是非ともお力添えをいただきたいというのである。「その才能はあるのか」と尋ねるので、アデーレは田舎娘から女王まで何でもできるとばかり、歌を歌って聴かせる。アルフレートの歌を別にすれば、第三幕で最初に歌われる歌である。コロラトゥーラを使っての軽やかな彼女の歌い方も聴きどころであろう。

フランク所長が力添えを約束したところへ、もう一人やって来た。これまた酔っ払いのルナール侯爵ことアイゼンシュタインである。アデーレとイーダはまずいと思って、牢屋に隠れることになる。ルナール侯爵(アイゼンシュタイン)とシュヴァリエ・ド・シャグラン(フランク所長)は再会を喜び合うが、やがて二人は本当の身分を明かして互いに驚いてしまう。ところが、フランク所長は昨夕のうちにアイゼンシュタインをすでに牢屋に入れてあると言うので、アイゼンシュタインは不思議に思い、昨夕の自宅での様子を話してもらう。それによると、アイゼンシュタインは部屋着のままで、夕食を摂っていたといい、また奥方も一緒だったという。それを聞いたアイゼンシュタインは、自分になりすましたその男に怒りを示し始める。

そのときまた外には一人の女性がやって来たようで、その女性の名前はロザリンデだという。その前に弁護士ブリントが現れたので、アイゼンシュタインは彼から衣服も鬘(かつら)も眼鏡も帽子も、さらに弁護士のカバンも借り受けて、弁護士に変身して、今牢獄に入っている男の様子を探ることにして、着替えのために一旦そこを退く。

そこへ看守フロッシュに連れられて牢屋からアルフレートが現れると、やがてロザリンデがやって来た。ロザリンデは主人が自分の部屋着を着たままのアルフレートを見たらまずいことになると思って、主人がここにやって来る前にアルフレートをここから出そうと思っているが、そこに弁護士に変装したアイゼンシュタインが戻って来た。ここで三人が歌う三重唱もたいへん興味深いところである。調書を作ろうとする弁護士アイゼンシュタインに向かって、アルフレートは昨夕、ロザリンデと夜食を共にしたのがもとで、奇妙な事件に巻き込まれて、ここに投獄されたことを打ち明ける。それを聞いた弁護士は、「火遊びが過ぎたせいだ」と言って、二人を弁護するどころか、二人を責め立てる。すぐに弁護の立場にあると考え直して、冷静を装う弁護士アイゼンシュタインであるが、妻のロザリンデが「夫はひどい人。昨夜も若い女性と一緒だったのよ」と言ってしまったので、ついには怒りを爆発させてしまい、自分こそそのアイゼンシュタインであると言いながら、変装を解いてしまう。弁護士だと思っていた人物がアイゼンシュタインだと知ってびっくりするロザリンデとアルフレートであるが、二人をひどく責めるアイゼンシュタインに向かって、妻のロザリンデは昨夜奪い取っていた懐中時計を彼の目の前にかざすと、夫アイゼンシュタインはもはや何も言えなかった。有利な立場にあるのは、妻のロザリンデの方であった。そうしているところへ牢屋に隠れていたアデーレとイーダのほかに、外からはファルケ博士とオルロフスキー公爵をはじめとして、昨夜一緒に楽しく過ごした客人たちも全員がやって来て、すべてはファルケ博士が仕組んだ「こうもりの復讐劇だったのだ」ということで、ロザリンデとアルフレートの逢引きもその一コマだったということになって、すべてがまるく収まることになったのである。さらに女優志望のアデーレもオルロフスキー公爵が芸術家のパトロンとして引き受けることになったのである。最後にロザリンデが「今回の騒ぎは何もかもシャンパンのなせる業(わざ)。・・・主人もこれまでのことを後悔して、私に誠実を誓ってくれた。・・・さあ、ワインの王を讃えましょう!」と、グラスを片手に歌い出して、一同もそれに唱和して、こうしてすべてが「めでたし、めでたし」となり、大団円のうちに第三幕の幕が降りるのである。


以上のように見てくると、ドタバタ劇の話の組み立て方も滑稽なことこのうえないもので、さらにヨハン・シュトラウスⅡ世の浮き浮きさせるような魅力的な音楽も加わって、ウィンナ・オペレッタの醍醐味を十二分に楽しませてくれるすばらしい作品に仕上がっていると評価することができよう。是非、この機会に『こうもり』を鑑賞して、ウィンナ・オペレッタの悦楽的な世界に浸ってほしいものである。


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