総科の先生とのコラボにより今年から開講した「読書コミュニケーションへのいざない」。
前期(「すだち116号」)に続き、後期の授業についても報告します。
後期は「ビブリオバトルをやろう!」というサブタイトルがついていて、ビブリオバトルなど読書コミュニケーションイベントの企画・実施に主眼においた授業設計になっています。
講師陣は、前期の先生方に加え、総合科学部の斉藤隆仁先生(物理学)も加わり、総勢5名。
受講生は6名なので、なんとも贅沢な授業です。
講義内容は前期とほぼ同じですが、斎藤先生が加わったことで、「クリティカル・リーディング」の時間が1時間増え、前期よりももう少し深く掘り下げることができました。
また、前期の反省から、次の2点を改善しました。
- ビブリオバトルと講義を交互に行う。
- 授業成果の可視化をはかるため、アンケートを行う。
前期の授業では、期間の前半に講義形式の授業を行い、その後ビブリオバトルを実施する、ということにしていました。このやり方だと、授業に慣れ緊張がなくなってきたところでビブリオバトルする、という状況を作れますが、ビブリオバトルが集中するので、毎週のように本を用意しなくてはならず、かなり負担になりました。また、座学で学んだこと(クリティカル・リーディングや本の深読み)がどの程度、ビブリオバトルの内容に影響を与えるのか見てみたい、ということもあり、後期では、座学2~3コマ、ビブリオバトル、座学・・・と交互に行うことにしました。
また、前期の授業では、ビブリオバトルが本当に新しい本との出会いにつながったのか、シラバスの目的にあるような「多様な価値観に触れる」ような読書ができたのか、検証する手立てがありませんでした。そこで後期では、ビブリオバトルによる変化を見るため、九州大学の事例(1)などを参考にアンケートを作成、実施しました。アンケート結果については、後で詳述します。
さて、今回図書館が担当した授業は「図書館実習」「ビブリオバトル実践(3回)」「ソーシャルリーディング(ブクログ)」で、計5回。ビブリオバトル、ブクログは前期とほぼ同様なので、後期にはじめて導入した図書館実習「図書館冒険ツアー」について詳しく紹介します。
10/22 図書館実習「図書館冒険ツアー」
まずは図書館を充分使いこなしてもらえるように、図書館実習を行いました。ここで普通なら図書館ツアーをしたり、図書館のデータベースの使い方を説明したりするのですが、今までの経験から、それをやってもあんまり学生はのってこないし、聞いてないし、覚えてないし・・・というのが分かっていたので、図書館を「冒険」してもらうことにしました。手順は次の通り。
- 3つのグループに分かれる
- 利用案内、つねくら図書館ガイド(新入生用ガイド)を持って、各班、各階にわかれて出発
- 各階で、利用案内の番号に書かれた場所をiPadで撮影する。その際に
- 気に入った場所
- 不思議に思う場所
- みんなに教えたい場所 など、プレゼンに使えそうな場所についてメモしておく
- 全ての場所を撮影したら、スタート地点(ラーニング・コモンズ)にもどり、「Missionカード」を受け取る。
- Missionカードの指令を遂行する
- ラーニング・コモンズにもどり、冒険で何を見つけたか各グループごとにプレゼンする
- 質問タイム
- 図書館職員から解説
この授業方法の意図は、ズバリ「課題解決」そして「ゲーミフィケーション」。
授業の目的は「図書館を知ること、使えること」ですが、情報を与えられる形で学ぶのではなく、他の学生にプレゼンする(=図書館案内)という課題をいかに解決するかという作業を通じて図書館を知ってもらいます。
そして、一つの課題をクリアしたら別のステージに進む、そこにはMissionカードがある、といったゲーム感覚ですすめることによって、「楽しく」授業に参加することができるようにしたつもりです。
その結果・・・大変楽しいプレゼンとなりました。みなさん、目の付け所がよくて、図書館職員が紹介したい場所がしっかり入っています。しかも学生目線で説明してくれるので、聞いている他の受講生も興味を持ってくれたようです。紹介された場所は、図書館1階ホールの図書の展示、研究個室、伊能図、学習ブース、などなど。そのプレゼンについて、図書館職員が解説を加えることで理解も深まり、図書館側としても使い方などをアピールすることができました。
そもそもビブリオバトルはプレゼンなので、プレゼン自体にも慣れてもらうことも目的の一つでしたが、授業全体をゲーム仕立てにしたためか、リラックスムードでプレゼンすることができました。
また、Missionカードでは、OPACを検索して本と出会ってもらうことを狙いました。
最近の学生は検索はお手の物。でも図書館のどこに何があるか、OPACのどのデータをみれば本にたどり着けるのか、それを理解するのはなかなか難しいようです。でもそれを図書館職員が手取り足取り説明しても眠いだけなので、OPACの使い方を書いた「つねくら図書館ガイド」とMissionカードだけを渡して「本を探して持ってきて!」というゲームにしました。
さらに、「その本の周辺の棚から各自好きな本を持って帰ること」、という指令を出すことで、図書館の書架は似たようなテーマの本が並んでいることを体感してもらいました。また、Missionカードの課題の図書は、わざと普段あまり読んでいないだろうと思われる分野の本を選んでいます。こうして未知の分野の書架に導いて新しい本に出会ってもらう、ということも狙いの一つでした。
こうして各自が持ってきてくれた本も、紹介してもらいました。選ばれた本からはそれぞれの個性が感じられ、受講生同士のコミュニケーションの助けになると思われました。また、選んだ学生も「ここにこんな本があるとは知らなかった」など楽しんでくれたようです。
というわけで、すっかり盛り上がってしまって時間が超過しましたが、受講生、教員ともに大変楽しかったので、これはまた来年もやりたいなあと思っています。
このほか、ビブリオバトルは10/29、11/26(全国大学ビブリオバトル2014の地区予選として開催)、12/17に行いました。さらには番外編として同時期に開催していた「全国大学ビブリオバトル2014」の地区予選(10/25、11/30)、地区決戦への出場や観戦を促したりもしました。
12/10のブクログを使った授業では、徳島大学附属図書館が10月に開設した「徳島大学附属図書館ユーザーのオススメ本棚」を紹介しつつ、授業のために開設したブクログページに、これまでのビブリオバトルで紹介した本の登録をしてもらい、書評も書いてもらいました。
そして、授業の最後はイベントの企画実施!
読書コミュニケーションを促進するにはどんなイベントがいいだろう?と、学生、教職員が様々なアイディアを出し、1か月かけて企画を練り上げました。
その企画がBook Cafe「B & C」です。
ブックカフェで語り合いたい、先生とビブリオバトルしたい、自分が普段読まない分野を読むのはどう?、他の人が紹介した本でビブリオバトルやる?本の展示もやりたいね・・・・という、企画段階で出たアイディアを詰めるだけ詰め込み、一日がかりで開催しました。
まずはイベントに先駆け図書館カフェテリアにカフェをオープン。コーヒー、紅茶、お菓子は教職員の持ち寄りです。
図書の展示も行いました。テーマは「知らない世界」。学生から、「今まで読んだことないけど興味のあるテーマ」を募り、その中から好きなテーマを選んでもらって本を選んで展示します。さらにはその中から1冊選んで、読んでくることに。これでビブリオバトルに臨みます。
展示図書のリストはこちら
ビブリオバトルは午前中に開催。授業関係者含め24名の参加がありました。
テーマは2つあり、学生は先に説明した「知らない世界」、教職員は「人生を変えた本」で対決です。
参加してほしい先生も学生が探してくる、ということになっていて、総合科学部の河原崎先生がバトラーとして登場。ビブリオバトルは見るのも初めて、と言いながらトップバッターで発表され、時間ぴったり、とても聞き応えのある発表でした。
投票数は7票で圧勝かと思われましたが、最後に発表した受講生が8票獲得してチャンプに!これはうれしい結果でした。
午後は本について語り合う「茶話会」を開催。参加者は16名でした。進行役の学生が2人いたので2グループに分かれトーク。先生、学生、図書館職員、外部の方・・・色んな人が入り乱れ、様々な話が繋がって随分盛り上がりました。イベントは16時半に終了しましたが、話足りない方々は残ってトーク。18時くらいまで残られてたような…。
文字通り、授業タイトル「読書コミュニケーションへのいざない」の実践となったと思います。
さて、この授業のねらいは、「大学生活の中に読書活動を習慣化し、読書を通した人との出会いによって読書のコミュニケーションを構築していくこと、そして多様な本との出会いにより教養を深め、多様な価値観に触れること」。
これが果たしてどこまで成果をあげているのか気になるところです。こういったことはすぐに成果として出てくるものではない、とは思うのですが、せめて何か少しでも行動にあらわれていないかな、ということで、「ビブリオバトル直前リサーチ」(以後「直前リサーチ」)「ビブリオバトル終了リサーチ」(以後「終了リサーチ」)と名付けたアンケートを行い、簡単に比較分析してみました。
リサーチ内容はこちら
そもそも母数が6名と少ないので統計的に意味のあるものが出るわけではないですが、個人の変化のようなものはわかるかもしれません。その結果から、いくつか気になるものを取り上げて紹介してみましょう。
直前リサーチでは、ビブリオバトルのイメージは「難しそう」「プレゼンがうまくできるかどうか不安」というのが一番多く、6人中5人がそのように回答しています。しかし終了リサーチでは、6名全員が「楽しかった」と回答しています。ただ、「難しかった」という回答も4名があげており、楽しいけど難しい、と感じていることがわかります。
また、「読書の幅が広がったか」という質問では、「そう思う」5名「どちらかというとそう思う」1名で、全員が読書の幅が広がったと感じているという結果になりました。では、どのくらい幅が広がったのか。「ビブリオバトルで紹介された本を読んだか」「よく読むジャンルはなにか」という回答から考えてみます。
本を読んだのは、4名。これはかなりの行動変化かと思われます。ところがジャンルを見てみると、ほとんど変化はありませんでした。
これは、いつも読んでいるジャンルの中での選択肢が広がった、ということに過ぎないのかもしれません。そこから多様な本との出会い、多様な価値観に触れる、ということにつながるのかどうか・・・。
しかし、この授業はたった半年です。価値観の変化や教養を身につける、というのは、それこそ一生の課題。性急に考えず、行動を少しずつ変えたり広げたりするきっかけになれば、それでもいいのかも知れません。
何よりも、難しいけど楽しい、ということが大事だな、と思いました。簡単にクリアできないことを楽しむことが出来ること。楽なことに流されないこと。これが、自ら学ぶ意欲や姿勢につながるように思います。これぞ、「アクティブ・ラーニング」。
もっともっと授業内容で改善できることはあると思うし、図書館の施設や蔵書など、大学での学びのバックグラウンドとして強化が必要だと思いますが、「楽しく学ぶ」授業を多くの先生とのコラボレーションで実施できたことは大きな成果だと思います。
来年度以降も開講しますので、興味のある方はぜひ受講してみてください。
(1) 副島雄児ほか、本を通して仲間を知る : コアセミナーでの試み、九州大学附属図書館研究開発室年報、2012/2012、 35/44(2013)