【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第116号
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☆共通教育授業「ソーシャル・デザイン」講義録

今年も図書館職員が共通教育の授業に参加しています。

今年の授業タイトルは「ソーシャル・デザイン」。

吉田敦也先生,齊藤隆仁先生が,大学教育改革に向かって取り組まれている共通教育の授業開発に参画して3年目となりました


シラバスはこちら → https://eweb91.stud.tokushima-u.ac.jp/Portal/Public/Syllabus/DetailMain.aspx?lct_year=2014&lct_cd=0010425&je_cd=1


シラバスにある通り,ソーシャルデザインとは,人間の持つ創造の力で,地域・日本・世界が抱える複雑な課題の解決に取り組むこと。

このことを,座学としてではなく未来の「徳島づくり・徳大づくり」をテーマにした演習課題(夏祭り開催)に挑戦することで総合的・体験的に学んでいくのがこの授業です。


ここで少し疑問が湧くかも知れません。この授業のどこに図書館が関わるの?と。


人間が持つ創造の力,というのは降って湧いて出るモノではなく,様々な知識や経験から生まれるものです。ではその知識はどこからやってくるのでしょう?

これまで学校で勉強してきたこと,本で読んできたこと,インターネットで調べてみたこと,それもあります。でも,今まで考えたこともない,地域の課題に直面したら?それについて勉強したこともなく,キーワードもわからなくてインターネットでも調べようがないとしたら?

そうなると図書館の出番になるわけです。

とはいえこの授業内容で,どこまで図書館職員が力になるのかなあと不安に思いつつ,授業開始となりました。



始まってみるとこの授業,予想通り,次々と色んなイベントが起こり,当初の予定通りにはすすまない。詳細な授業内容は公式サイト http://ct.ias.tokushima-u.ac.jp/sd/ を見ていただけると良いのですが,そのイベントの中から次の4つをとりあげて,簡単にご紹介します。


5/1    ビブリオバトル

5/29   スカイツリー&ワークショップ

7/12   スカイツリーツアー&NADワークショップ

8/21~23 夏祭り




〇5/1 ビブリオバトル

この授業全体のコンセプトとして,遊び心=プレイフル・シンキングで進める,ということがあります。何事も楽しみながら,自分たちがやりたいからやる,という取り組み方です。というわけで,まずは,ソーシャルデザインの知識を得るための本を「ビブリオバトル」でお互いに紹介し合うことにしました。

なお,ビブリオバトルは,「本を通して人を知る,人を通して本を知る」というキャッチフレーズがあるように,お互いを知るには格好のゲーム。これから半年間共に共同作業するのはどんな人たちだろう?そんなコミュニケーションを楽しむこともできました。


ビブリオバトルの様子はこちら

ソーシャルビブリオ

今回のビブリオバトルではもう一つ面白い試みを。この時の課題は,「3冊の本を選んでその中から1冊を紹介する」ということだったのですが,1週間では中々難しく,読めていない人がちらほら。そこで授業中に15分だけ読んで,大事なところをプレゼンする,という変則ビブリオバトルにしました。


授業の進め方はこちら


どうなるかと思いましたが,短い時間で読んだ中からエッセンスを理解するというのは,本を選ぶ作業としては有効だったようで,プレゼンも上手にできていました。その時に感じたのは,「度胸のいい学生が多いなあ」ということ。これからの授業が楽しみになりました。



〇5/29 スカイツリー講演会&ワークショップ


最初の授業から数回は,徳島の課題や未来についてグループで話し合っていましたが,何となくどこに進んでいったらよいのかわからない感じに。

そんな中,東京スカイツリーを設計した日建設計の塩浦政也さんをお招きして,「ソーシャルデザインプロジェクトを進めるにはどうしたらよいか」という内容の講演会と「自分たちが考えている未来の徳島ってソーシャルデザインとしてどうか」というワークショップを開催することになりました。


それが,徳島大学けやきホール事業「スカイツリーはこうしてデキタ」(徳島市後援)です。

http://ct.ias.tokushima-u.ac.jp/sd/2014/05/29/class0529/


ワークショップ開催に当たっては,これまで自分たちが考えてきた未来の徳島のまちを,形として塩浦さんにお見せしなくてはなりません。作業時間はわずか1週間あまり。これまでの作業で出してきた課題や未来の徳島に関するキーワードが,1枚の模造紙にうまく配置出来たら上出来,と思っていたら,講演会当日に出てきたのはなんと,紙粘土で創られた「みらいの徳島」のジオラマ!


講演会前日,作業途中のジオラマ

ジオラマ0528

講演会当日の完成ジオラマ

ジオラマ0529

泊まり込みで作業をしたとのことで,教職員の方が驚くやら感激するやら・・・。これには塩浦さんも感心しきりでした。



そして,講演会の最後,先生が「みんなスカイツリーツアーに行きたい?」と聞いたところ,たくさんの手があがりました。

え?共通教育の授業で,東京まで行っちゃうの?

もしかして,この受講生のみんな,すごいんじゃない!?と思った瞬間です。



〇7/12   スカイツリーツアー&NADワークショップ


というわけで,スカイツリーツアー,本当に決行されました。

http://ct.ias.tokushima-u.ac.jp/sd/special/


このツアーにあたっては,塩浦さんから「地下鉄銀座線について調査せよ」等々5つの指令が出ていて,東京についた朝から学生は休む間もなく指令をこなしながらスカイツリーへ。

スカイツリーでは,塩浦さん直々に,スカイツリーやソラマチのコンセプトやデザインのこだわりなどについてレクチャーしていただきました。また,午後からは,塩浦さん率いるNAD(Nikken Activity Design Lab)のメンバーと,自分たちの夏祭り企画についてワークショップ。詳しくは,こちらのブログをご覧ください。

http://ct.ias.tokushima-u.ac.jp/sd/2014/07/14/%E3%82%B9%E3%82%B4%E9%81%8E%E3%81%8E%E3%82%8B/


私たちのつたない企画を,こんな頭脳集団が真剣に,一緒に考えてくれてる!本当に贅沢なワークショップでした。学生のモチベーションも一気にあがり,あとは企画書を書いてやりきるだけ!というモードに入りました。



○8/21~23 夏祭り


ところが,ことはそう簡単にすすまず・・・企画書が中々完成しない中,前期試験前にいったん授業は終了。その後,前期試験,お盆休みを挟みながらの準備は想像を絶する忙しさ。でももうここまで来たらやるしかないので,「やりきる!」を合言葉に,授業外にもかかわらず,三々五々人が集まって,作業,作業の日々・・・。

当日もどんどん改良を重ねつつ,地域の方々の協力に感謝しつつ,なんとかお祭りを行うことができました。


http://ct.ias.tokushima-u.ac.jp/sd/futurecommunity/


当日は,再会を楽しみしていた日建設計の塩浦さんが,忙しい合間をぬって来賓として参加してくださいました。東京でのワークの成果を見ていただくことができて本当に良かった。


当日の企画はこちら→http://ct.ias.tokushima-u.ac.jp/sd/idea/

当日の様子

夏祭り 夏祭り 夏祭り 夏祭り 夏祭り 夏祭り 夏祭り 夏祭り 夏祭り 夏祭り

大学のホームページでも紹介されました。 

http://www.tokushima-u.ac.jp/docs/2014082800043/


まだまだ改善できるところはあったと思うけど,ともかくやりきることが出来て良かったです。


実は,このお祭りの後にも作業は続いていて,今は報告書づくりをやっています。

今回の記事では,「やったこと」を時系列に並べているだけで,ソーシャルデザインそのものにはあえて触れていません。とてもじゃないけど,メルマガで紹介できる分量ではないからです。その,根幹部分はいずれ刊行される報告書でお読みいただければ幸いです。



ただ一つ,今回の授業の反省点としてあげておきたいのは,やはり知識が足りなかったこと。


何かを動かすためのエンジン(企画力ややる気)は搭載したけど,それを動かすガソリン(知識)が圧倒的に足りなかった。

やる気はあってもそれを動かす術をしらないので,実際に動かそうと思ったら,どうしたらよいかわからなくて空回り。あるいは,立ち止まって動けなくなったりということを何度となく繰り返しました。

半期の授業では難しいけれど,やっぱりもう少し知識を得ること,知識の引き出しを増やすことを並行してできたらよかったな,と感じました。もちろん頭だけで得る知識では心もとないですが,すべてを経験することはできないのですから,本で疑似体験したり,先人の知識を一気に吸収することが必要になってきます。


そういった中で,よかったなと思ったのは,図書館職員である私と知り合ったことで図書館に足が向いて,本の探し方などを聞きに来てくれるようになったこと。大学での学びの入口として図書館を認識してもらえたので,あとは学生の皆さんが自分の興味関心のあることを探していけば「自分事」として自ら学んでいけるのではないかと思いました。



というように,なんだかバタバタと過ぎて行った授業ですが,シラバスを振り返ってみて,その授業目標がクリアされていることに驚きました。「徳島の未来を考え」,「ソーシャルメディアで色んな人とつながり」,「楽しみながらコミュニティ活動に参加」していく。


授業を受けている間はすっかり忘れていてもがいていたのに,気づけばそこに届いていた,という感じです。

この絶妙に難しい課題設定は,吉田先生の授業では常套手段で,こうやっていつも学生を戸惑わせ,自分で考えるよう促しているのだなあ,と思います。考えて,考えて,動いてみて,作ってみて,表出して自分のものにしていく。あきらめなければ,ステージを一つ上がることができます。

この授業でできた学生同士のつながりは,どうも今後発展していくようです。これからの展開を楽しみにみていきたいと思います。


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