【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第116号
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☆共通教育授業「読書コミュニケーションへのいざない」講義録

「読書コミュニケーションへのいざない」とは,総合科学部の依岡隆児先生(ドイツ文学), 真壁和裕先生(分子進化発生生物学),笹尾佳代先生(日本近現代文学)という3人の先生方と図書館職員がコラボして,今年から開講した授業です。

この授業のねらいは,「大学生活の中に読書活動を習慣化し,読書を通した人との出会いによって読書のコミュニケーションを構築していくこと,そして多様な本との出会いにより教養を深め,多様な価値観に触れること」。


メルマガすだち第113号(6月)(http://www.lib.tokushima-u.ac.jp/m-mag/back/113/113-5.html)で一度報告しておりますが,7月30日で全講義を終了しましたので,その後の授業概要を報告します。


〇6/4 真壁先生(社会学科環境共生コース)による「CriticalReading」


コラボしている先生の中で唯一の理系,真壁先生の授業では,書かれた文章が『本当に正しいかどうか』を自分なりに検証し,評価する読み方,「クリティカルリーディング」について学びました。

大学で研究を進めるためには,このような読み方は必須です。またこのような読み方ができるようになれば,明快な文章も書けるようになります。

また,このような読み方を身につけるということは世の中の事象もそのような目で読み解けるようになるということ。

「読書コミュニケーションへのいざない」の中ではもっとも難解(私だけ?)な講義でしたが,文章の中にひそむ根拠や論拠を丁寧に分析し,そこから結論を導き出すという作業は頭がクリアになって爽快でもありました。


なお,クリティカルリーディングの内容に入る前,授業の導入として「読書の愉しみ方のいろいろ」というお話があったのですが,これが大変分析的かつ包括的で,目からうろこ,でした。

いわく,

・読書の目的は新しいものを知ることであるが,その中身は気分転換から研究まで色々ある。

・消費する読書,生産する読書というあり方がある。

・よい読み手になるには色々な読み方がある。ある程度以上の冊数を読む,同じ本を繰り返し読む,ある程度以上の負荷(質・量ともに)をかける,等々。また読んだ本について話や議論のできる友人・コミュニティを持つとよい。


これまで漠然と捉えていたであろう「読書」についてまとまって考えられたことで,受講生のみなさんにも大学で読書をする意義が感じられたのではないかと思います。

また,図書館職員としてもどういった本を提供すればいいのか,大学で勉強する上でどういった本の読まれ方が期待されているのかを改めて考え直す機会になりました。



〇6/11-18 笹尾先生(人間文化学科日本文化)による「謎解き読書」


笹尾先生の授業テーマは,本を“深読み”する「謎解き読書」です。

まずは,斉藤美奈子著「文芸誤報」(朝日新聞社)から「文学作品を10倍楽しく読む法」が紹介され,読書感想文を書くようなモードで本を読まない,物差しをたくさん持て,困ったときは遠くを見よ(歴史や社会に目を向ける),といった本の読み方の心得が受講生全員に提示されました。


その後は,深読みする方法の一つとして「表現を分析する」という課題に取り組みました。簡単な例文を用いて,「なぜその表現が用いられているのか」ということに着目してみるのですが,書き方の微妙な違いが意味を大きく変えることがあること,選ばれた単語の意味を考えると文章の背景がわかること,など,これまで読み流してきた文章について,深く考えてみることの面白さを体感しました。

さらに,カルチュラルスタディーズという手法を用いて何故その文章はそのように書かれているのか分析するという,本の『謎解き』に挑戦。題材は,太宰治「走れメロス」です。あの短い小説のごく一部を2回の授業で丁寧に読み込んでいきます。

カルチュラルスタディーズという単語,本のタイトルとして目に触れる機会は多かったのですが,この講義で実際に学んでみて,「なるほど,こういうことか」と納得しました。カルチュラルスタディーズでは時代背景を知ることが大変重要になってきます。今回の講義では戦前の日本の状況を知るために,図書館が提供している新聞データベース「聞蔵Ⅱ」を使いました。このような材料を揃えていなければ,研究をすすめることが出来ないということが実感できて,大学図書館が資料を提供することの重要性を再認識した授業でした。


そして,このあとはいよいよ「ビブリオバトル」づくし!

この授業,もともとは「ビブリオバトルをやる授業をやりたい!」,ということで先生方と相談・協働してできたもの。

結構長い助走期間を経て,やっとビブリオバトルを行うことができました。

開催したビブリオバトルは何と5回!紹介された本の一覧はこちらをご覧ください。

それでは,各回の様子をダイジェストでご紹介します。


○6/25 徳島大学の※「阿波ビブリオバトルサポーター」によるビブリオバトルデモ

この回は,ビブリオバトルの説明と,阿波ビブリオバトルサポーターによるデモンストレーションで,受講生はビブリオバトルを観戦。

かなりのプレゼン巧者ばかりが集まったので,大変な盛り上がりを見せました。

準備せずにその場のノリでしゃべる人,きっちり準備して美しく話す人,観客に話しかけながらアクティブにしゃべる人・・・人それぞれで,受講生も楽しんでくれたようです。


阿波ビブリオバトルサポーター代表が司会をしてくれました。

阿波ビブリオバトルサポーター代表が司会をしてくれました。 阿波ビブリオバトルサポーター代表が司会をしてくれました。

※阿波ビブリオバトルサポーターとは・・・

徳島大学の学生を中心としたビブリオバトル団体。2013年3月活動開始,2014年より徳島大学公認のサポート系団体として活動中。

ブログ:http://awabiblio.blogspot.jp/


○7/2 受講生が「ブクログで紹介した本」を使ってお試しビブリオバトル


さあ,いよいよ受講生によるビブリオバトル。でもいきなりはハードル高いかも,ビブリオバトルに苦手意識を持たれるのも嫌だな,ということで,以前の授業でブクログに登録した本を使う「お試しビブリオバトル」を行いました。これだと一度は書評を書いているので,話す材料はすでに自分の中にあります。

さらに,ビブリオバトルをもっと楽しめるよう,「ビブリオバトルカード」を用いました。ビブリオバトルカードとは,北海道のビブリオバトル普及委員,安倍尚登さんが開発したもので「どの本が一番読みたくなったかを決めるための投票用紙であり,全ての紹介者に『その本は面白そうですね!』と前向きなコメントを伝えて,ビブリオバトルがもっと楽しくなる仕組み」です。(http://www.p-cd.org/2013/11/bb-card.html より引用)


ビブリオバトルカードを使うと,チャンプに選ばれなかった人も聴衆全員からフィードバックをもらえるので,敗者へのフォローアップになります。またポジティブな反応をもらえることで,次も発表してみようというモチベーションアップも期待できます。さらに「その本の面白そうなところを2つ見つける」という目的が与えられるので,発表に集中することができ,質問内容も深くなる,という効果もあります。

発表者全員が発表に対して前向きでない場合がある授業では,ビブリオバトルカードの導入は有効だと考えられます。


この日は「緊張する〜」と言いながらも,ちゃんと話すことができて,自分の好きな本に対する気持ちが,聴衆にも伝わったと思いました。これは今後の期待大!と感じた「お試しビブリオバトル」となりました。

※この回は紹介された本のリストはありません。




〇7/9 戦略ミーティング&7/23ビブリオバトルのテーマ決め


この日は,ビブリオバトルをやってみての感想を共有し,どうやったらうまく伝わるかなどを考える戦略(?)ミーティング。

感想としては,「緊張した」「時間の使い方が難しい」「自分が読んだことがある本が出てくるのが面白い」「本のチョイスがよかった」「本が好きなことがよく伝わった」などがありました。

また,プレゼンの方法として「最初に言いたいことを言った方が伝わりやすい」「ただの説明になってしまわないように5分使うのが難しい」「あらすじを感情よりも考えで話したが,感情が出てる人の話の方がよかった」などの意見が出ました。

しかし,おおむねビブリオバトルは好評だったようです。他のビブリオバトルでも,やる前は嫌だな,と思っていてもやってみたら楽しかった!というのはよく聞かれることです。

しかし,毎回本を探すのは結構大変だし,本が偏ってくることもあります。そこで,ちょっとでも違った傾向の本が紹介されるように,次々回のビブリオバトルはテーマ設定をすることに。話し合いの結果,夏休みにちなんで「旅」がテーマとなりました。



〇7/16 好きな本でビブリオバトル


この日は自由にビブリオバトルをしてみよう,ということで受講生,教職員9人が好きな本を紹介。

これだけ人数がいると,2グループに分けてもよかったのですが,どれも聞いてみたいということもあり,一気に発表しました。本のジャンルが様々なので聞き飽きることもなく,楽しくバトルできました。この回は,受講生の紹介した本がチャンプ本となりました。


〇7/23 ビブリオバトル,テーマは「旅」


2週間の準備期間を経て,「旅」をテーマにビブリオバトルを行いました。

この回は6冊紹介されましたが結構票がわれて,チャンプ本は2冊となりました。学生から一人,教職員から一人です。


紹介された本とビブリオバトルカード

紹介された本とビブリオバトルカード

〇7/30 最終決戦


さあ,いよいよこの授業の集大成。

最後の授業は「阿波ビブリオバトルサポーター」のメンバーと受講生とのバトル!

驚いたことに,6冊のうち4冊が同票で,4名同時チャンプ,しかもそのうち3人が受講生でした。

最初は発表をいやがっていた学生も,とてもうまくプレゼンできるようになっていて,しかも本のチョイスもよい。大変楽しいバトルになりました。


写真3 写真3-2


この授業でビブリオバトルやブクログを取り上げたのは,読書の楽しみ方のバリエーションを紹介したいということもありましたが,読書のアウトプット,つまり自分がインプットしたことを出してみる体験をして欲しいということがありました。アウトプットする段階まで来てはじめて身につくことがあり,レポートやテストなどとは違う形で,楽しみながらアウトプットしてもらいたいと考えたからです。

あとはやはり,授業の目的にもあるように,様々な本や価値観に触れるきっかけづくりが大切だと考えていました。異分野の先生とコラボすること,色んな学部の学生と本を読んでコミュニケーションすることで,これまでの自分にはなかったものに触れるきっかけになれば,と思っています。

一つ成果があったのは,この授業の受講生2名が,8月24日に徳島県立文学書道館で開催された「ビブリオバトルin徳島2014 社会人×大学生」に発表者として出場してくれたこと。

授業が外へのアクションに直接つながるというのはあまりないことではないかと思います。さらにこの内の1名は阿波ビブリオバトルサポーターのメンバーにもなってくれました。

受講生は7名と少なかったけれど,目の前で変化する学生を見ることができたことを大変うれしく思っています。

この授業,後期も行います。おそらくは,さらにバージョンアップして。

興味のある学生の方はぜひ,受講してみてくださいね。


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