【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第91号
メールマガジン「すだち」第91号本文へ戻る


<不定期連載>読書Fun!〜司書Sが楽しく読んだ本をご紹介します(第18回)

なんと気づけば半年ぶりです。今年度は4月から全学共通教育の講義「iPadが開く新しい学びの扉」に参加したりして,たくさん本を読んだのにまとめる時間がなかった・・・という自分の事情はさておき,この講義がきっかけで読むことになった本を紹介します。


タイトルは『一粒の柿の種』。ビールがおいしい季節だからではありません。
iPadの講義で,「フェイスブック連動ミニ読書会」を行ったのですが,その時にみんなで読んだのが寺田寅彦の『柿の種』でした。物理学者であり,かつ夏目漱石の弟子でもあった彼の文章は大変美しく,科学的でもあり哲学的でもある,というもので,「あ,これすごく好きな本」と感じました。


最近,何故か読んでいる本が「科学的なんだけど読み物としてもおもしろい」本に偏っていて,これはどういうジャンルなんだろう,と思っていたのですが,「ポピュラーサイエンス」というのだそうです。なるほど。
一般の人にもわかりやすく科学の面白さを説いた本,ということですね。
ということを『一粒の柿の種』で知りました。


『一粒の柿の種』は寺田寅彦の『柿の種』にことよせて書かれたものです。科学を語るサイエンスライターの草分けとして寺田寅彦を紹介しています。
最近だと,福岡伸一ハカセですね。『一粒の柿の種』でも文章がうまい科学者として紹介されています。
私もついこの間,福岡ハカセの『ルリボシカミキリの青』という本を読みましたが,彼の大好きな虫や風景の描写がとても美しくて繊細で驚きました。
福岡ハカセの本は、読むうちに自然と「科学を見る目で日常を見る楽しさ」を知るようになるのに対し,『一粒の柿の種』は、手を引かれて確実にその方向に連れて行ってもらう感じがします。
つまり,福岡ハカセの本は「ポピュラーサイエンス」であり,『一粒の柿の種』は「ポピュラーサイエンス」へのガイドブックといえます。
この本の中では,あの『種の起源』のダーウィンから始まって,『沈黙の春』のレイチェル・カーソン,ホーキング博士,アインシュタイン,『ご冗談でしょう,ファインマンさん』などのファインマンなど,科学を身近に感じさせてくれた数々の科学者が紹介されています。


ところで,大学図書館で働く者としては,本を読む=小説を読む,ばかりではないということを,知ってもらいたいという想いがあります。
当然,教科書を読む,ハウツー本を読む,ばかりでもありません。新明解国語辞典の「読書」の項によれば,後者の二つは読書ですらない,ということですし。
だからきっと「ポピュラーサイエンス」なんです。


自分の身の回りに起こっている何気ない出来事の裏には色んな法則があることの不思議。
それらの法則を探究してきた多くの先人たちの努力。
そういうことを考えるきっかけとなる本との出会いは,きっと読む人の世界を広げてくれます。
大学では,自分もその探究に参画するだってできます。
「科学=難しい勉強」ではなく,「科学=どうしてこの世界はこんな風にできているの?という謎を解き明かす」こと。
そのための手続きはやっぱり難しいかも知れないけど,自分の知りたいことがわかるなら,楽しくできる・・・と思うのだけど,どうでしょう?
そもそも知りたいことなんて思いつかない,という人。ぜひ,「ポピュラーサイエンス」の本を読んでみてください。
世界は謎と驚きに満ちています。


メールマガジン「すだち」第91号本文へ戻る