【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第91号
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連載「知的感動ライブラリー」(64)

映画『禁じられた遊び』(1952年フランス)
総合科学部教授 石川榮作

映画『禁じられた遊び』はルネ・クレマン監督によってフランスで製作され,1952年に公開されたものである。ギター独奏による有名な『禁じられた遊び』の主題歌「愛のロマンス」によって映画全体が引き締まって素晴らしい仕上がり(上映時間=1時間26分)となっていて,アカデミー賞名誉賞(のちの外国映画賞)やヴェネツィア国際映画祭のグラン・プリなどを受賞している。この映画のあらすじを辿りながら,見どころなどを紹介していくことにしよう。

1940年6月,パリはドイツ軍に占領されて,パリ市民が行列を作って郊外へ避難して行く場面からこの映画は始まる。その難民の群れにドイツ軍の爆撃機による攻撃は容赦なく続く。その難民の中にはポレット(ブリジット・フォッセー)という名前の5歳の少女の両親もいて,車に荷物を積んで逃れているが,車が故障してしまい,車を捨てて,手に荷物をさげて,さらに郊外へと逃げて行く途中,またもやドイツ軍の爆撃機によって攻撃を受ける。この騒ぎで幼い少女ポレットの愛犬ジョックが逃げ出したことから,ポレットはそのあとを追って駆け出した。少女の両親も幼子のあとを追って駆け出したところ,ドイツ軍の爆撃機が近づいてきて,幼子をかばいながらうつ伏せになるが,爆撃機の機銃掃射で両親は即死してしまう。橋の上で展開されるこの機銃掃射の場面は恐ろしくて,つい目を背けたくなってしまう。戦争の恐ろしさを感ぜずにはいられない場面である。爆撃機が通り過ぎて,幼いポレットは隣に横たわっている両親を起こそうとするが,身動きもせず,反応がない。手の中に抱いていた愛犬ジョックも死んでいるようである。

ポレットは立ち上がって,死んだ愛犬を手に抱いたまま,道路脇に立っていると,リアカーを引っ張っている男性に乗せてもらうものの,そばにすわっていた女性によって死んだ犬を川の中に投げ捨てられたことから,ポレットは車から降り,難民の行列から離れて,川の中を流れて下って行く愛犬のあとを追う。下流でやっと死んだ愛犬を拾い上げたポレットは,その小川のあたりをさまよっているうちに,近くの農家で暮らすミシェル(ジョルジュ・プージュリー)という名前の10歳の少年に出会った。ミシェルはティティンと名付けていた自分の家の牛が逃げ出して,それを追いかけてそのあたりにやって来たのである。ポレットは死んだ犬を抱えて,泣いている。少女から両親と愛犬を亡くした事情を聞き知ったミシェルは,少女に同情を示して,新しい犬をあげるからと言いながら,死んだ犬をそこに残して,ポレットをひとまず自分の家に連れて帰ることにした。この幼い二人の出会いの場面がまずは最初の見どころであろう。特にポレットのあどけないしぐさが可愛らしい。その幼いポレットを助けようとする,これまた幼いミシェルも,健気で感心させられる。

ミシェルのドレ家はかなり貧しかったが,ポレットはそこで暮らすこととなった。ミシェルには二人の兄と二人の姉がいたが,長兄ジョルジュ(ジャック・マラン)はちょうど先程難民の行列から逃れて来た馬に蹴り飛ばされて,重傷を負ってベッドの中に寝たきりになっていた。しかし,ドレ家の人々はパリで暮らしていた都会っ子のポレットを温かく受け入れたのである。ただこのドレ家の家長ジョゼフ(リュシアン・ユベール)は隣人であるグアール家の家長(アンドレ・ヴァスレー)とはかなり仲が悪いようで,今もドレ家には病人がいるのにグアール家の犬がうるさいなどと喧嘩をしている。ことあるごとにいがみ合ったり,罵り合ったりして,喧嘩を繰り返しているようである。

たちまち孤児の境遇となったポレットは,ドレ家の中でも特に末っ子のミシェルが親近感を持っていろいろと世話をしてくれるので,すぐに彼になついた。ポレットは「パパとママのいる橋のところに行きたい」と言い出すと,ミシェルは「もうそこにはいない。穴の中に埋められているよ」と教える。するとポレットは,「雨に濡れないように埋められたのね。では,私の犬のジョックは雨に濡れてしまうわね」と無邪気な答え方をする。避難して来て疲れているポレットをミシェルが寝かしつけてやるこの場面も,またこのあと夢を見て,泣き叫ぶポレットをしきりにミシェルが慰めようとする場面も,美しいメロディの主題歌「愛のロマンス」がやさしく奏でられる中,この映画の見どころであることは言うまでもない。

翌朝,ポレットは起き出してくるが,家の中にある十字架を見ても,それがどういうものなのか,またもちろん神というものも知らなかった。ポレットは一人で愛犬ジョックを残してきたところへ出かけて,その犬を埋めるために,穴を掘ろうとしていると,神父がそこを通りかかり,幼い彼女に祈りを教える。神父が立ち去ったあと,ポレットはそこでは穴が掘れないと分かると,近くにあった廃屋の水車小屋の中に入って行って,そこで穴を掘り始めた。しかし,幼い少女の手ではなかなかうまくいかない。そこへミシェルがポレットを探し当ててやって来て,穴を掘るのを手伝った。やっと穴が出来たので,ポレットは祈りを捧げながら,そこに犬を埋葬する。この水車小屋は墓地にぴったりのようである。純粋無垢なポレットは,お墓が一つなので愛犬ジョックが可哀そうだと思って,もっとたくさんのお墓を作ってやりたいとミシェルにねだる。するとミシェルはその願いを叶えてやりたくなって,モグラやネズミをはじめ,いろいろな動物・生き物の死体を集めて,たくさんのお墓を作ることにした。またその墓地のために十字架をも作ることにした。最初は木切れを十字に結び合わせるだけのものであったが,それを愛犬ジョックの墓に立てると,ポレットは自分が大切にしてきた首飾りをそれに飾り付けるのであった。その後,ミシェルはポレットと一緒に十字架を作りながら,ポレットに「アーメン」で締め括るお祈りの仕方を教える場面も,いじらしく思われて見どころの一つであろう。この二人の無邪気な遊びはだんだんとエスカレートしていって,そのうち教会や墓地の十字架を盗んで,それを自分たちの動物・生き物のお墓に捧げようと考え始めることになるのである。これが映画の表題の「禁じられた遊び」である。

そうしているうちに馬に蹴り飛ばされてベッドに寝たきりだったドレ家の長兄ジョルジュの容体が急に変わって,ついに彼は亡くなってしまった。その葬儀のためにドレ家の父ジョゼフは葬儀用の車を用意するが,ミシェルはそこから十字架を盗んで,自分たちの作ったお墓に持って行った。

そのような折り,隣のグアール家には息子のフランシス(アメデー)が軍隊を逃げ出して戻って来たようである。ドレ家の父ジョゼフは娘ベルト(ロランス・バディー)に対して「フランシスには近づくな」と命じるが,その娘ベルトと隣の息子フランシスはすでに恋仲となっていたようである。ミシェルとポレットがお墓作りの遊びに興じている間,その二人の恋人はひそかに逢瀬を楽しんでいたのである。

長兄ジョルジュの葬儀の日となった。教会の中で葬儀が行われている最中に,ミシェルは外に呼び出されて,父から葬儀用の車に飾られてあった十字架のことを問い詰められると,口まかせに「隣のグアールさんの仕業だ」と言い逃れてしまった。また教会の中に戻ると,ポレットはたくさんの十字架を見つけていたが,とりわけ聖壇に飾られていたきれいな十字架がとても気に入って,自分たちの作ったお墓のために,「あれがほしい」とミシェルにねだった。まだ分別のつかない10歳の少年に過ぎない純粋無垢なミシェルは,何が何でもそのように願うポレットの願いを実現させてやりたくてたまらず,翌日,懺悔をする振りをして教会に入って,神父の隙をねらってその十字架を盗みとろうとするが,物音を立ててしまい,神父に見つけられて,教会から追い出されてしまう。

それでもポレットはもっとたくさんの十字架がほしいと言い続けるので,ミシェルは夜中に家を抜け出して,教会の墓地に向かい,そこから15本の十字架を手押し車に乗せて,遠くの空からは空爆の音が聞こえてくる中,水車小屋のお墓へ運ぶが,そこまでの途中で一つの十字架を落としてしまった。

ドレ家の長兄ジョルジュのお墓参りの日,ミシェルの父が教会へ行く途中の道で一つの十字架が落ちているのを見つけた。父親は直感的に隣のグアールのいやがらせだなと思った。ドレ家の墓地に着いてみると,その墓地は荒らされていたので,父親はそれをグアールの仕業だと思って,怒り狂ってしまい,近くのグアールの妻アメリーの墓から十字架を引き抜いて,バラバラに壊してしまった。ちょうどそこへグアール一家も,自分の家の墓地がごみ溜めだと罵られたことから墓掃除にやって来たので,鉢合わせてしまい,両家の父親は殴り合いの大喧嘩をし始めた。この喧嘩を収めたのが,そこへ現れた神父である。神父は「十字架を盗んだのは,グアール氏ではない。ミシェルの仕業だ」と言って,その大騒ぎを収めたのである。やばいことになったと思ったミシェルは,その場から逃げ出して,水車小屋に姿を隠してしまう。彼はそこで自分たちの作ったお墓がだいぶ増えて賑やかになったことに満足感を覚えていた。

一方,父親ジョゼフはミシェルを探すが,見つからない。それにしても息子ミシェルは14本の十字架を何のために,またどこへ持って行ったのか,不思議に思うとともに,グアール家の十字架の弁償をしなければならないことで困っている。娘のベルトもまたポレットに十字架のありかを問い詰めていると,そこへこっそりとミシェルが戻って来て,姉のベルトにグアール家の息子フランシスと納屋にいたことをばらしてしまうぞと脅すので,ベルトはそれ以上問いただすことはできない。ミシェルはポレットに「お墓がとてもきれいになったよ」と伝えてから,明日一緒に見に行くことを約束して,その夜はとりあえず納屋で寝ることにした。この約束をする場面も,主題歌「愛のロマンス」が奏でられる中,見どころの一つであろう。

ところが,翌朝,ポレットがミシェルとともに水車小屋に出かけようとすると,ドレ家には警察の車がやって来た。ミシェルの父ジョゼフは隣のグアールが訴えたのだと思った。そこで父親はミシェルが納屋にいるのをついに見つけて,彼に十字架はどこにやったかと言いながら,息子をひどくぶったりしながら懲らしめる。そのうち母親がやって来て,警察は戦災孤児のポレットを施設に入れるために迎えに来たことを伝えた。それを聞いたミシェルは,ポレットをこのまま家に置いて引き取ってくれたら,十字架の場所を教えると答えた。すると父親はそれを約束したので,ミシェルはとうとう十字架は水車小屋にあることを打ち明けた。ところが,父親はミシェルとの約束を破って,ポレットを身請けする警察の書類にサインしてしまう。ミシェルは大いに怒って,家を飛び出し,水車小屋に行って,すべての十字架を引き抜いて,川に流してしまう。ポレットの首飾りだけは残しておいた。そのとき車のエンジンの音が聞こえてきた。ポレットは警察の車に乗って,連れて行かれたのである。ミシェルは悲しく思いながら,ポレットの首飾りを水車小屋のミミズクに与えた。

最終場面はたくさんの人であふれかえる駅である。ポレットは修道女に連れられている。名札を付けられたが,そこには「ドレ・ポレット」と名前が記されていた。これから施設に連れて行かれるところである。しかし,修道女が少しその場を離れた瞬間,ポレットは人混みの中で「ミシェル」と叫ぶ人の声を聞いた。もちろん他人が自分の身内のミシェルを呼ぶ声であったが,ポレットはその声が聞こえてきた方に向かって,「ミシェル,ミシェル」と叫びながら,歩き出した。しかし,ドレ家のミシェルがいるわけがない。ポレットは相変わらず「ミシェル」という名前と「ママ」という叫び声をあげながら,雑踏の中へと入って行くところで,エンディングとなる。なんともあわれでならない幕切れである。ポレットのような戦災孤児を二度と作ってしまってはいけない。戦争の悲惨さがひしひしと感ぜられる最終場面である。

以上のとおり,戦災孤児を主人公とした「可愛く」もまた「可哀そう」な内容の映画ではあるが,いがみ合い,罵り合うばかりの「大人」の世界と幼くてあどけない「子供」の世界が好対照を成しながら,大人の「禁じられた遊び」とも言うべき無意味な「戦争」の悲惨さを静かに訴えかけている映画でもある。それだけに悲惨な戦争の犠牲者となった純粋無垢なポレットのしぐさに「可愛らしさ」と「憐れみ」を感ぜずにはいられない。この幼い5歳の少女の世話をするミシェルの「健気さ」と「優しさ」にも感動せずにはいられない。またこの二人の純真なやりとりの最中に,ギターによる『禁じられた遊び』の主題曲「愛のロマンス」が流れてきて,その場面を大いに盛り上げている。素晴らしい仕上がりの映画となっていると評してもよいであろう。是非,この機会にこのフランスの不朽の名画『禁じられた遊び』をご鑑賞いただきたい。


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