【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第84号
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徳島大学附属図書館「知的感動ライブラリー」(57)

ミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』(1965年アメリカ)
総合科学部教授 石川榮作

1.ミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』の原作と成立過程

今回はミュージカル映画の傑作『サウンド・オブ・ミュージック』を紹介することにしよう。この映画は1965年3月にアメリカで公開され,日本では同年6月に公開されて以来,実に47年経った現在でも世界中で多くの人たちに愛されている作品である。

原作はマリア・フォン・トラップの自叙伝『トラップ・ファミリー合唱団』(1949年)である。第二次世界大戦中,ナチス・ドイツの占領下にあったオーストリア・ザルツブルクの町でトラップ・ファミリーが歌を歌うことでもって人々を励まし続け,またアメリカに亡命してからも合唱団活動を続けたという実話に基づいた小説である。この小説の前半ザルツブルクでの話をもとに1956年に西ドイツ映画『菩提樹』が製作され,また後半のアメリカを舞台にして1958年に『続・菩提樹』が製作された。この2本の映画がきっかけとなってアメリカ・ニューヨークのブロードウェイでミュージカル化が企画され,さらにそれが1965年に映画化されてミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』となったのである。主人公にはブロードウェイで活躍し,『メリー・ポピンズ』(1964年アメリカ)で映画界に入ってアカデミー賞を受賞したジュリー・アンドリュースが抜擢され,ザルツブルクの美しい景色をバックに澄んだ美しい歌を聞かせてくれる。ザルツブルクの美しい風景とともに,音楽は人々の心を豊かにしてくれることを実感することができるミュージカル映画の傑作である。あらすじを辿りながら,見どころ・聴きどころなどを指摘していこう。

2.ミュージカル映画『サウンド・オブ・ミュージック』のあらすじと見どころ

舞台は1938年,ナチス・ドイツの占領下にあったオーストリアのザルツブルクである。主人公マリア(ジュリー・アンドリュース)はその町の修道院で修道女見習いとして修業の日々を送っているが,トラブルばかり起こしているお転婆娘である。歌を歌うのが好きで,時間さえあれば,美しいアルプスの麓の高原に出かけては,歌を歌いながら自然の中を駆け回っている。冒頭部分でマリアが美しいアルプスの高原の真っ只中で「サウンド・オブ・ミュージック」の歌を歌うシーンがまずは最初の見どころ・聴きどころであろう。

この映画の表題となっている歌を歌いながら,マリアは自然の中で伸び伸びと駆け回っているうちに時間を忘れ,修道院から聞こえてくる鐘の音でやっと我に返り,大急ぎで帰って行くが,修業の時間にはいつも遅刻を繰り返すような有様である。マリアは修道女にはとても向いていないようである。修道院長(ペギー・ウッド)はそのように手の焼けるマリアの将来のことを思って,マリアを住み込みの家庭教師としてフォン・トラップ大佐の邸宅に送り込むこととした。マリアがギターを持って,飛び跳ねながら,そのトラップ大佐の邸宅に向かう場面で歌われるのが「自信を持って」の歌である。ザルツブルクの市街が美しくスクリーンに映し出されて,とにかく心楽しくなってくるシーンである。

オーストリア=ハンガリー帝国海軍の退役将校であるトラップ大佐(クリストファー・プラマー)の豪邸に着くと,マリアは驚くことばかりである。邸内の豪華な部屋のみならず,トラップ大佐の笛の合図で駆け寄って来た7人の子供たちにもびっくりしてしまう。この邸宅全体が軍艦の上にいるような雰囲気で,7人の子供たち――長女リーズル(シャーミアン・カー)は16歳で,長男フリードリッヒ(ニコラス・ハモンド)は14歳,二女ルイーザ(ヘザー・メンジース)は13歳,二男クルト(デュアン・チェイス)は11歳,三女ブリギッタ(アンジェラ・カートライト)は10歳,四女マルタ(デビー・ターナー)は7歳,そして一番下の娘であるグレーテル(キム・カラス)は5歳の設定である――はまるで水夫のように厳しい規律に縛り付けられている。トラップ大佐が数年前に奥さんを亡くしてから,7人の子供の世話は家庭教師に委ねてきたが,どの家庭教師もその厳しい規律についていけずに,長く居つくことができずに,マリアは実に12人目の家庭教師だという。子供たちもいたずらが好きで,さっそくマリアのポケットに蛙を入れたり,夕食の際にはマリアの席に松かさを置いたりしてびっくりさせる。そのようないたずらにもマリアはくじけずに快活に振る舞って応える。

その夕食の際にトラップ大佐に電報が届いて,翌日からウィーンに出かけなければならなくなったようである。その電報を届けたロルフ(ダニエル・トゥルーヒット)は大佐の長女リーズルと密かな恋仲関係にあり,リーズルは夕食の途中でそっと抜け出して,邸宅の庭とその中にあるガラス張りのあずまやでロルフと逢い引きのひとときを過ごす。そのときリーズルが歌うのが,「16歳,もうすぐ17歳」の歌であり,この歌やそのときのダンスとともに二人の若者による密かな逢い引きの場面も見どころ・聴きどころの一つであろう。リーズルはボーイフレンドとの逢瀬に時間が経つのも忘れてしまい,家から閉め出されたかたちとなり,マリアの部屋の窓からそっと家の中に入って来た。いつの間にか外は雷鳴と雷雨が激しくなっていたので,びしょぬれのリ-ズルは着替えをしているうちに,ほかの子供たちも雷が怖くてマリアの部屋に集まって来た。そこでマリアは「泣きたい時は楽しいことを考えましょう」と言って,「私のお気に入り」という歌を歌い,それでもって7人の子供たちとすっかり打ち解けることができた。しかし,そこへトラップ大佐が現れて,就寝時間を守らなかったことで叱られてしまう。

マリアはこのようにトラップ大佐から厳しい規律を守るように命ぜられ,また服も海軍の軍服のようなものだったので,音楽も笑いもない子供たちを可哀そうだと思い,カーテンの生地を使って一人一人に遊びの服を作ってやって,ハイキングに出かけることにした。そのハイキングのシーンがまたこの映画の見どころ・聴きどころである。アルプスを背景にした高原でマリアはギターを弾きながら「ドレミの歌」を教える。歌を一緒に歌うことで,子供たちにも笑顔が戻ってきた。

数日後もマリアは子供たちと楽しく遊んでいるところに,トラップ大佐が未亡人であるウィーンの男爵夫人(エリノア・パーカー)と友人マックス・デトワイラー(リチャード・ヘイドン)を連れて戻って来る。子供たちが奇妙な遊びの服を着て,湖にボートを浮かべて遊んでいるのを見て,トラップ大佐は激怒するが,マリアは子供たちに目を向けてほしいと訴える。すると大佐はいきなりマリアに解雇を言い渡すが,子供たちが客人の男爵夫人とマックスの前で「サウンド・オブ・ミュージック」を合唱しているのを聞くと,自らも長い間忘れていたその歌を一緒に歌う。大佐はこれまでの自分の子供たちに対する教育方針が間違っていたことをマリアに詫びて,引き続き家庭教師を務めてくれるようにと頼む。

そのあと子供たちは男爵夫人とマックスを歓迎するため,人形劇「丘の上の孤独なヤギ飼い」を披露する。この人形劇も子供たちの美しい歌声とともに見どころ・聴きどころである。トラップ大佐は二人の客人とともに大喜びである。友人のマックスは子供たちを歌のコンクールに出場させたいと申し出るが,しかし,大佐はそれに同意しない。子供たちを人前では歌わせたくないのである。そのときマリアは大佐にギターを渡して歌を歌ってほしいと頼むと,大佐はためらいながらではあったが,自らギターを手に取って,昔を懐かしみながら「エーデルワイス」を歌う。友人マックスは「大佐が合唱団に加われば,完璧なのだが」と惜しむくらい,大佐の歌は見事であった。

数日後にはトラップ大佐と男爵夫人の婚約披露のパーティが開かれることになったが,そのパーティでフォークダンスを踊る場面ではマリアがトラップ大佐とぴったりと息の合った踊りを披露する。この映画のあらすじの展開という点では最も重要な場面であり,この二人のフォークダンスは決して見逃してはならない。大佐の目がマリアの目と合ったとき,マリアは顔を赤くして「もうこれ以上は忘れてしまった」と言いながら,ダンスを止めてしまう。大佐がマリアに対して愛情を抱いていたことに初めて気づいた瞬間であり,またマリアの方も知らず知らずのうちにトラップ大佐に対して特別な愛情を抱いていたことにこのとき初めて気づくのである。その二人の様子をそばで見ていた男爵夫人も,二人の心のうちを読み取ったようである。やがて就寝の時間になると,子供たちは「さようなら,ごきげんよう」を歌って,客人たちを喜ばせる。マリアとトラップ大佐のフォークダンスとそのあとに続くこの子供たちの歌の場面までが,この映画の最も重要な見どころ・聴きどころの一つであることは確かである。

子供たちが就寝のためにパーティの広間を立ち去ったあと,大人たちの食事が始まるにあたって,客人マックスの提案でマリアもその席に出席することになった。そのため自分の部屋で着替えをしていると,男爵夫人がやって来て,大佐がマリアに対して胸のときめきを感じていることをほのめかしたあと,しかし男のそのような心は冷めやすいものであることを口にすると,マリアはここにいるのが怖くなって大佐に置き手紙を残して,そのまま修道院へ帰って行った。

突然,マリアがいなくなってさみしく思った7人の子供たちは,修道院にマリアを訪ねるが,会えないまま戻って来る。一方,マリアは修道院長から「隠れていても問題は解決しません。立ち向かうのです。自分の道を探すのです」と言われたあと,「すべての山に登りなさい」という歌でもって励まされると,大佐の邸宅に戻る決意をする。この修道院長の歌も最後には盛り上がって,聴きどころであろう。

修道院へ出かけていたため昼食の時間に遅れた子供たちは,父から叱られ,元気を出そうと「私のお気に入り」の歌を皆で歌おうとする。そのときマリアが戻って来て,子供たちから歓迎される。

その夜,トラップ大佐は邸宅の庭に面したバルコニーで男爵夫人に自分の気持ちを伝え,婚約を解消する。その場面で男爵夫人が潔く退く展開も後味がよくて,不思議にもさわやかな気分にさせられる。トラップ大佐とマリアは邸宅の庭にあるガラス張りのあずまやで互いに愛情を抱いていることを告白する。そのとき二人が歌うのが「何かよいこと」であり,この愛の告白の場面も見どころ・聴きどころである。二人はさっそく結婚式を挙げて,新婚旅行に出かける。

二人が1か月にも及ぶ新婚旅行に出かけている間に,ナチス・ドイツのオーストリア併合はかなり進んでいた。大佐の長女リーズルはボーイフレンドのロルフから父親あての電報を受け取ったが,ロルフはナチスの突撃隊員になったりしていて,どこかリーズルに対して冷たかった。トラップ大佐がマリアとともに新婚旅行から戻って来ると,邸宅にはナチス・ドイツの旗が掲げられていたので,怒って下ろしてしまう。友人のマックスは大佐の留守中に歌のコンクールに出場する手続きを取っていたが,大佐はそれに相変わらず反対する。娘リーズルから渡された電報の内容は,ドイツ海軍からの召集令状で,「明日ブレーメルリーフェンの海軍基地に出頭せよ」というものであった。しかし,大佐はそれに応じる気は毛頭なく,命令を無視して一家でスイスへ亡命する決意をする。

その夜,トラップ大佐が亡命しようと邸宅を出たところで,ナチス・ドイツの官吏たちに見つかってしまう。官吏たちは大佐を任務先へ護送しようとすると,大佐は歌のコンクールに出場することを伝えて,護送の時間延長を願い出る。その官吏たちの監視する中で歌のコンクールは行われ,トラップ一家合唱団は「ドレミの歌」を歌う。そのあと大佐がオーストリアの愛国歌とも言うべき「エーデルワイス」をしみじみと歌ってから,最後に家族全員で「さようなら,ごきげんよう」を歌い上げる。この歌のコンクールも聴きどころであろう。審査の結果,トラップ一家が優勝するが,その表彰式の間に一家は逃げ出してしまう。

一家が逃げ延びた先は,修道院である。ナチス・ドイツの官吏たちが駆けつけて来て,そこを捜索する。一家は修道院長の計らいで墓地の後ろに隠れる。官吏たちの厳しい捜索の間,一家はじっとこらえて墓地の後ろに隠れている。この場面がドキドキハラハラさせて,この映画で最も緊張してしまうシーンであろう。これまでの快活な歌の場面と一味違った映画の醍醐味を味わわせてくれる。捜索隊の中には長女リーズルのボーイフレンドであるロルフもいて,彼は一家が潜んでいる所を察知して,官吏たちがそこを立ち去ったあとも,蔭に隠れてピストルを構えながら一家が出て来るのを待ち受けていた。一家が現れ出たところで,ロルフも姿を現して,ピストルをトラップ大佐に向ける。大佐は家族に逃げるよう指示したあとで,ピストルを構えるロルフに近づく。ロルフは「近づくな。近づくと撃つぞ」といった態度であるが,引き金をどうしても引くことはできない。しかし,ロルフは笛でトラップ一家を見つけた合図をする。大佐は大急ぎで家族のあとを追って,準備していた車に乗って,修道院を脱出した。それを見た官吏たちは車で追いかけようとするが,どうしてもエンジンがかからない。陰で修道女たちが「神よ,罪をお許しください」と祈りを捧げる。どうやら修道女たちが官吏たちの車からエンジンの部品を取り除いていたようである。緊張感漂う脱出場面の中でも,ちょっとユーモラスな笑いを感じさせるシーンである。

無事修道院を脱出し,ザルツブルクの町からも逃れ出たトラップ一家は,アルプスの山を越えて逃亡先のスイスに向かっているところで,この映画は終わる。その最終場面で歌われるのが,かつて修道院長がマリアに向かって歌って励ました「すべての山に登りなさい」である。歌の内容とスクリーンとが一体となった素晴らしい最終場面である。


以上のような内容で展開されるこの映画は,毎年のようにテレビでもよく放送されているが,一体,どこに魅力があるのであろうか。考えてみるに,まずは美しいアルプスやザルツブルクの町を背景に,トラップ一家が澄み切った歌声を聞かせてくれる点であろう。それが1938年当時のナチス・ドイツのオーストリア併合という歴史と重なり,しかもそのほとんどが史実に基づいているというところにも大きな関心が寄せられるのであろう。またトラップ大佐が快活なマリアを通じて,昔馴染んでいた「歌のこころ」をも取り戻し,家族を一つにしたところにも観客を引き付けてしまう。歌,すなわち,音楽は人を変える大きな力を持っていることを実感させる映画と評してもよいであろう。ミュージカル映画の最高傑作ではないかと思う。アルプスの山のように心が清く澄んで,かつ広くなってくるような気持にしてくれる名画である。自然と音楽の素晴らしさを感じ取ることのできるこの不朽の名画を,是非,この機会にご鑑賞いただきたい。


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