【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第82号
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<不定期連載>読書Fun!~司書Sが楽しく読んだ本をご紹介します(第16回)

以前から、三浦しをんという小説家は職業の伝道師である、と勝手に思っていたのですが、ついにその集大成とも言うべき本が出ました!

その名も「ふむふむ : おしえて、お仕事!」。女性の職人、芸人さんとの対談集です。三浦しをんの小説では、主人公が特殊な職業についていて、その日常がこと細かに記述されていることがよくあります。読んでいると、自分も明日からその職業につけるのではないかと思うほどの詳細さとリアリティ。なんでここまで書けるんだろう、なんでここまで書くんだろう、と思っていましたが、この対談集を読んで少しその秘密がわかった気がします。「ある人物を知ろうと思ったら、仕事について聞くとよい」というのが彼女の言。確かに仕事を語るとき、自分の好み、社会との関わり方、物事の捉え方、など自然と出てくるような気がしますよね。人間を語るために仕事を語る、ということなのでしょう。

それにしても、ここで対談している人々の職業はバラエティに富んでいます。染色家、靴職人、ビール職人、活版印刷職人、飼育係、漫画家アシスタント、編集者・・・。このセレクトはまさに三浦しをんという人物を物語っているとも思えます。そしてどの対談も面白い。工事現場監督をしている方(当然女性)との対談にはぐっとくるものがありました。

ところで、私は彼女の小説を読むといつも、「新しく絆を結ぶ」ということが大事なテーマになっているな、と感じます。家族など生来の絆がもろくても、新しく絆を結んでいくことができる、という希望。ここで対談している人々も、職人、芸人という一見自分の能力さえあれば働いていけそうな職業についていますが、みなが他の人々とのつながりの大切さを語っています。自分の仕事をとりまく他の人と協力すること。他の人に自分の仕事を届けること。自分の仕事に満足してもらうこと。対談者が楽しそうに、そして真摯に自分の仕事に取り組んでいるその理由は、そのあたりにあるような気がします。

「仕事」に関する本となるとすぐに「就活」と結びつけて考えてしまいがちですが、そんな目の前のことにとらえられず、もっと先を見て生きたらいいよ、と後押ししてくれるような、いやそんなことも吹き飛ばしてただ楽しみのために読めばいいんだよ、と思えるような、面白い本です。私も三浦しをんさんと語りあいたい!

「ふむふむ : おしえて、お仕事!」の情報

  • 書名:ふむふむ : おしえて、お仕事!
  • 著者名:三浦しをん
  • 出版社:新潮社, 2011.6
  • 所蔵情報
  • 本館2階西閲覧室(社会系) 請求記号:366.29||Mi 資料ID:211003171

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