【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第81号
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<不定期連載>読書Fun!~司書Sが楽しく読んだ本をご紹介します(第15回)

10月13日、ライブラリー・ワークショップ企画「オススメの1冊~タイムトラベルフェア」で本を紹介することになりました。
タイムトラベル……歴史関係でもいいか。時代小説でもいいな。そうだ、「手妻のはなし」があったな。というわけで今回はイベントで紹介した「手妻のはなし」という本を、ここでも紹介します。(手抜きではありません。記録です、記録)

「手妻」。江戸時代を舞台にした小説を読んでいたらしばしば出てくるこの言葉。文脈からして「手品かな?」と推測できたけど、手品とどう違うんだろう、と興味を持っていたところ、「手妻のはなし」という本を発見しました。
こんな本があるなんて!

「手妻」とは江戸から明治にかけて行われていた日本独自のマジックのこと。「水芸」などはテレビでもおなじみではないでしょうか。

この本の著者は、一度消えかけた「手妻」の技を復興し後世に伝えようとしている手妻の第一人者。
手妻を語るため、古代の奇術(奈良時代!)から書き起こし、時代が下り社会の変遷の中で奇術がどう変わって手妻にいたったかを、多くの文献を引きながら紐解いて行きます。
古い時代には芸能と宗教との結びつきが深く、奈良時代には「散楽戸」という音楽や奇術など芸能に関する役所があった、とか、江戸時代の貴族は「官位」を授けることで収入を得、身分の低い手妻師は官位を得ることで立場がよくなった、とか今まで聞いたこともない日本の歴史が次々と出てきて大変おもしろい。

これらの話のもとになる文献というのが「吾妻鏡」「今昔物語」「和漢三歳図会」などなど……
古典の授業で聞いたことがある!
伝統芸能を受け継ぐということは、「歴史」を受け継ぐということなんですね。

もちろん、書物だけでなく、自分の師匠や他の手妻師にも話を聞き、直接教えを請うています。それが昭和40年ごろのことで、当時の師匠は明治の生まれ。ということはその師匠の師匠は江戸時代の人ということもあったとか。
昭和40年ごろは、まだ江戸時代の言葉が聞けた時代だった、という言葉に驚きました。

手妻の魅力は仕掛けの面白さと所作の美しさ。そしてその所作にこめられた物語の無常観や叙情性。
これは洋の東西を問わず通用したようで、江戸から明治にかけて、手妻は西洋にも活動の場を広げ、大成功をおさめたそうです。
ところがその一方で、海外から多くの奇術師が来日するようになって人気を集め、その上日本国内では「明治維新」により、「日本文化」を否定するように西洋化を推し進める動きがあり、手妻は徐々に衰退していってしまうのです。
日本には、世界に誇る洗練された文化があるのに、日本人がそれを否定してしまう……。
とても残念なことです。

この本で、手妻は文化庁の「本物の舞台芸術体験事業」で、平成19年度から学校で講演を行っていると紹介されています。
「すばらしい!」と思ったのに、事業仕分けで仕分けられ、平成22年で終了したらしい。
芸術は一朝一夕に利益を得ることとは無縁だから、いいのに。

手妻最盛期の江戸時代、手妻など芸能をささえた観客は、下級武士や商人でした。
彼らならきっとこういいますね。
「野暮だねえ」

「手妻のはなし」の情報


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