【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第80号
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○<不定期連載>O課長の気儘なお気に入り~オススメ・エンタ~

『深海のYrr』

Wikipediaで「海洋冒険小説」と紹介されている『深海のYrr』(原題:Der Schwarm)は、2004年ドイツでベストセラーをひた走った後、2008年には早川書房から「早川文庫NV」の一つとして翻訳出版されました。本学では、「ドイツ文学」に分類され、附属図書館本館3階の東端の書棚(943.7||Sc||1~3)に鎮座しています。

作者はフランク・シェッツィング。一世を風靡したサッカー界の貴公子ベッカムの風貌を髣髴とさせる男前でありながら、卓越した取材力と構想力によって、想像を絶する別宇宙を作品で提示してしまいます。憎たらしくも羨ましい存在ですね。一発屋では終わらず、立て続けに長編をものにし、日本で同じ早川文庫NVとして刊行されている最新作『沈黙への三日間』では美人テロリストを主人公に据えたサスペンスを展開します。その幅の広さに脱帽するしかありません。

前置きはさておき、『深海のYrr』。

冗長な部分もないわけではないですが、強引に読者を引き込む力に溢れています。終盤はジェットコースターに乗った気分を味わえます。深海でサメに襲われたりする恐怖も、ありありと映像的に描写されています。果して、地球の支配者は人間なのか、それとも地球の7割の表面積を占める海そのものなのか。

読んでいくうちに、プレートテクトニクス、海洋生物学、SETIといった様々な分野の科学的知識も鏤められていて、知らず知らずのうちに物知りになったような気分になるでしょう。海、それも深海という、近くにありながらあまり知らない宇宙があることに、興味がわくものと思います。大陸棚とプレートの歪による大地震・大津波のメカニズムにも不思議な理論を適用し、ひょっとしたら、と思わせるところに科学ジャーナリストでもある著者の経歴が生かされているようです。ですが、あくまでもSFなので、著者の創作が現在の事実であると誤認されないようお願いします。

少しでも興味があれば、手に取ってほしいですね。カバー見開きに著者の写真が載っているので、それだけでも見てください。後悔する人はあまりいないと思います。これから秋の夜長、徹夜するのも楽しいですよ。

なお、プレートテクトニクスに関連するエンタには他に、緻密でありながら神秘的な魅力の詰まった『ハイドゥナン』(藤崎慎吾著、早川書房、 2005.7)があるので、紹介しておきます(本学に所蔵はありませんので、悪しからず)。

学術的な啓蒙書で楽しく学べるオススメは、学会で「定説」化されているかどうかは不確定ですが、「生命と地球の歴史」(本館1階新書コーナーの岩波新書080||Iw||D543)を挙げておきます。本書は、プレートテクトニクス理論を地球コア・マントルまで掘り下げモデル化して補強・修正するプルームテクトニクス理論の提唱者であり、本学教育学部卒業後、現在東京工業大学大学院理工学研究科で地球惑星科学を専攻されている丸山茂徳教授の著作です。


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