これほどワクワクしながら本を読んだのは本当に久しぶりだった。
本のタイトルは「風をつかまえた少年」。14才にして独力で風力発電を作った少年,ウィリアム・カムクワンバのドキュメンタリーである。
彼が住むアフリカ,マラウィの村カスングでは,2000年に大きな旱魃と飢饉にみまわれる。もともと豊かとはいえないこの地域では多くの人が職を失い,飢餓や伝染病により多くの死者がでるなど,重層的な困難に直面していた。
このような状況の中,中学を辞めざるを得なかったカムクワンバが思いついたのは「風車」をつくることだった。
風車で電気を起こせば夜でも本を読んだり,働いたりすることができる。電気で水をくみ上げることができれば,女の人たちは毎日の水汲みから解放され,畑にも水をまくことができる。風車と揚水ポンプがあれば多くの作物を栽培でき,飢餓から解放される・・・。
そして何より,もともと科学者志望だったカムクワンバは何かをつくるのが楽しくてたまらないのだ。
自分が卒業した小学校の図書室に通いつめ,自分が経験的に知っていた知識を体系的に理解した時の喜び。理解した知識をもとに実際に装置を作り,上手くいった時の楽しさ。「創造する」喜びがあふれていて,読んでいるうちにこちらもニヤニヤしてしまう。
周りになんでも揃っている私たちには思いもよらない方法で,彼はあらゆるものを作り出す。風車を作るための道具,ドライバーやナイフまで手作りなのだから!
この風車が話題になり,中央の役員の目に止まり,新聞に取り上げられ,数人のブロガーに取り上げられて,「TED(テクノロジー・エンターテイメント・アンド・デザイン)グローバル2007」という国際会議に出席することになる。ここに至る状況の変化は劇的で「これからどうなるんだろう?」という彼のワクワク感が,読んでいる方にも乗り移る。
彼が素晴らしいのは,何かを作りたい,という動機が自分の利益のためではないからだ。中央の役員の目に止まるきっかけになったのは,小学校で科学クラブを始めたことだが,ここでも彼は,「自分の風車を見て子供たちが何かをつくってみようという刺激になれば」と考えている。
この本をぜひ,大学生に読んで欲しい。ものづくりを目指す学生に。
私はキカイ系がさっぱりわからないので,彼が完成させた「風車」の素晴らしさを充分に理解できていないかも知れない。ガラクタの寄せ集めで「風車」をつくることがどれほどすごいことか,実感できるのは機械系の学生?それとも電気系?
また,世界のことを広く知りたい,と思う学生にも読んで欲しい。
アフリカが直面する食糧問題,エイズの問題,環境問題などがカムクワンバの目を通して語られていて,これらがどれほど彼らにとって切実な問題かが実感できる。
そして,このような苦しみの中だからこそ,カムクワンバが成し遂げたことは希望につながる。
カムクワンバは困難な状況でも夢を失わない。まえへ進みつづけようとがんばっている人たちを励まさなくてはいけない,と彼はいう。絶望的な状況にくじけそうになっている仲間にこの物語が届いてくれれば,と。
震災,原発と多くの問題を抱える今の私たちにとっても大きな勇気となるだろう。
私たちが本当に世界を理解し,新しい世界を創造するためには,断片となって伝わる情報ではなく,物語が必要だ。
そしてこの本は,喜びと希望に満ちた物語である。
書名:風をつかまえた少年 : 14歳だったぼくはたったひとりで風力発電をつくった
著者名:ウィリアム・カムクワンバ, ブライアン・ミーラー著 ; 田口俊樹訳
出版社:文藝春秋, 2010.11
所蔵情報
所在:本館3階東閲覧室(人文系) 請求記号:936||Ka 資料ID:210005182