【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第68号
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○<不定期連載> 読書Fun!~司書Sが楽しく読んだ本をご紹介します(第6回)

不定期連載の名の如く,しばらく間が空いてしまいました。
気づけば夏もあっという間に過ぎてしまいましたね。年々時が経つのが速くなる気がします。どうしてかなあ。
・・・と思っていたら,ぴったりの本を見つけました!タイトルはずばり「なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか」。
記憶についての心理学の学術書なのですが,タイトルが示すとおり,なんだかこころ惹かれるテーマについて書かれています。
たとえば,
「特殊な記憶能力をもつ人々(サヴァン症候群やチェッカー名人など)」
「トラウマと記憶」
「年を取ると若いころのことばかり覚えているのは何故か」
「既視感体験(デジャブ)」
「臨死体験」
などです。

この本の面白いところは,心理学の最新の研究データを示すのみでなく,人間が人間の記憶について「心に感じて」記録に残してきたこと,つまり小説や映画や絵画をテーマの口火としてとりあげて論じているところです。
学生のころ,文学の先生に言われたことがあります。
「人間の心は心理学ではわからない。文学ですよ。」

この本の著者ダウエ・ドラーイスマは,それを地でいっています。そして,それらの記録が,心理学の実験や脳生理学でどのように説明できるのかが説明されるので,感覚的にも,論理的にも納得ができるようになります。
また,各章の最後にはいつも,そのテーマに沿った文学的な一文が用意されていて,単なる学術書ではなく格調高い文学を読んだような気分を味わうことも出来ます。
それにしてもこの人の守備範囲の広いこと!人間の心について追求するならそこまでカバーしなくてはいけないのね・・・。

ダウエ・ドラーイスマはオランダの心理学史の教授です。心理学「史」というだけあって,その実験や調査のデータは,最近のものだけではなく,1800年代のものがざらにでてきます。
このように研究の流れを追うことで,人間の記憶について,心理学や脳生理学の研究はどこまで説明可能になったのか,そして説明できていない部分は何かがよく理解できます。

心理学の専門書ですので読むのはかなり骨が折れますが,心理学がいかに「人間」について考えている学問であるかを感じさせてくれる良書だと思います。
それにしても,読んでいるうちに前に書いてあったことを忘れてしまって,中々読みすすめられない・・・。
「なぜ年をとると今読んだばかりのことを忘れるのか」。次のテーマはこれだな。


「なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか」の情報
書名:なぜ年をとると時間の経つのが速くなるのか:記憶と時間の心理学
著者名:ダウエ・ドラーイスマ
出版社:講談社 出版年:2009年3月

所蔵情報
所在:徳島大学附属図書館本館3階東閲覧室(人文系)
   請求記号:141.34||Dr 資料ID:209004057

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