【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第65号
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○<不定期連載> 読書Fun!~司書Sが楽しく読んだ本をご紹介します(第5回)

「上司は思いつきでものを言う」
いえ,これは私のぼやきではありません。今回紹介する本のタイトルでございます。
秀逸ですよね~。
このタイトルを見て本を手に取らない社会人はいないのではあるまいか。
さすが橋本治です。

で,内容はというと,上司の思いつきに振り回される人々の悲哀を描くのか,はたまた上司への痛烈な批判を繰り広げて溜飲を下げることができるのか・・・,と思えばさにあらず。
決して「上司」という個人を批判する内容ではありません。上司がそうであるのは日本の社会と組織の問題だというのです。
「上司が思いつきでものを言う」,という日常身の回りに起こっている現象を解明するために橋本治は,戦後の経済復興から高度経済成長,バブル崩壊,そして現在に至る日本の経済状況・社会状況から説明に入ります。
その内容の広さたるや,この本一冊で何本もレポートが書けそうです。

例えば,

①バブル経済の発生機序について述べよ
②学歴社会の社会的な意味について述べよ
③儒教をキーワードに官僚文化の変遷について述べよ

と,いうようなお題を思いつきました。一筋縄ではいかない本です。

この本の中で特に面白い(?)のが,官僚についての論考です。ついこの間まで国家公務員であった私たち大学職員にとって身につまされることがたくさん書いてあります。

『会社組織はたやすく官僚化する。しかし官僚組織はたやすく会社化しない。・・・(中略)会社化しようとしてたやすく失敗する。』
『官の組織には「現場の声」を聞く必要がない・・・(中略)・・・というのは,官僚がその仕事の範囲を法律で定められ,それに基づいて動いているからです』
『官僚は,「目の前の現実に対処しろ」という命令が上から来ない限り,「目の前の現実」に対処しません。』

ああ,耳が痛い。
国立大学は法人化後,これらの状況に問題意識を持ち現場のニーズに答えようともがいているわけですが・・・。

などなど,ものすごい勢いで縦横無尽に展開される橋本治の論理についていっていると,読んでる間中こちらもものすごく色々考えているのですが,最後まで読んだときには「この本何が言いたかったのかしら。はて?」という不思議な感じになります。

この本を読んで思ったこと。
物事を俯瞰する視点を持つ,とか歴史的な流れをつかむとか,そんな大きな視点でものを見ると,毎日の大小のトラブルが小さく思えて,そういう意味ではストレスも減る・・・かも。
・・・いやー,そんな話じゃなかった気がするな~。

上司に思いつきでものを言われたらどう対処するか対処法も書いてありましたが,ネタバレになるのでここには書けません。ここは一つご自身でお確かめください。


「上司は思いつきでものを言う」の情報
書名:上司は思いつきでものを言う(集英社新書;0240)
著者名:橋本治
出版社:集英社 出版年:2004年4月

所蔵情報
所在:徳島大学附属図書館本館1階新書コーナー
   請求記号:080||Sh||0240 資料ID:207005712

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