【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第51号
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附属図書館長就任にあたって


 本年4月1日付けで附属図書館長を拝命いたしましたので,就任にあたり一言ご挨拶申し上げます。
 国立大学は法人化以来,以前にも増して独自性が求められるようになり各大学ともその達成に向けて懸命の努力がなされております。知の創造と継承を担う大学にとって附属図書館はその大学の知的象徴,品格のバロメーターであり,また教育・研究を育む土壌であるとも言えます。したがって徳島大学が確固たる地位を築くためには図書館の充実・発展は最も重要な要件であると考えられます。しかしながら,最近の国家財政の逼迫に伴い何かにつけてゆとりのなさが感じられることが多くなってきております。また情報化時代の到来により情報の価値が上がり,特に科学雑誌の購読料の高騰は尋常ではありません。このような状況下,図書館を取り巻く環境はますます厳しくなってきております。これまでも歴代館長はじめ関係各位のご尽力により本館の改修も実現し,めざましい充実・発展がなされてきましたが,今後ともこの勢いをゆるめることなく,本学にふさわしい附属図書館として充実・発展することが求められていると思います。以下に現在の本附属図書館が抱える課題のうち特に重要なものについてご紹介します。
 最も大きな課題は電子ジャーナルの問題です。ご存知のように我々の教育・研究の遂行において不可欠な情報源である科学雑誌は電子化により格段に利便性が向上しております。しかしながら,その価格は配信する出版社の言いなりに,まさに年々ウナギ登りに上昇しております。毎年関係各位のご配慮により何とか凌いで参りましたが,そろそろ限界に近づいて来たように思われます。ある地方大学では耐えきれずある出版社のジャーナルを解約したものの,やはりそれでは成り立たず数ヶ月でやむなく復帰したとの話も漏れ聞いております。お金持ちの大学にとってはそれほど深刻な問題とはならないのかも知れませんが,地方大学では死活問題で格差拡大の一因となりかねません。世の不条理を感じさせる話ですが,泣いてばかりでも居られませんので叡智を結集して解決の道を探ることが必要です。電子ジャーナルの利便性を享受されている教員の皆様にはこの辺の事情をご理解の上,ご協力を宜しくお願い致します。
 次の課題として機関リポジトリの構築があげられます。機関リポジトリとはその機関の研究成果などを一次情報として蓄積保存し,キーワードとなるメタデータを付してインターネットを介して広く世界に発信するものです。学術情報基盤としての大学図書館の今後の在り方として注目され,各大学で積極的に整備が進められております。現在世界では1,241機関で,また我国の国立大学では86法人中67法人で稼働中とのことです。上述の電子ジャーナルが「情報の入口」とするならば,この機関リポジトリは「情報の出口」に対応し,この両者が完備してこそ情報センターとしての附属図書館の機能が充分発揮され,その有用性も一段と高まるものと考えられます。徳島大学にはすでに類似したシステムとしてEDBがありますが,これはもともと学内運用を目的に構築されており,必ずしも機関リポジトリの目的とは一致しません。しかしながら類似のものを別々に構築する無駄は避けるべきですので,関係部局と相談しながら徳島大学的機関リポジトリの構築を進めていきたいと思います。
 以上,現在の附属図書館が抱える課題を2題取り上げましたが,これらはいずれも情報の電子化に起因するものであり,将来の大学附属図書館の在り方を示唆しているように思われます。正直なところ図書館長に就任してからの俄勉強によるものではありますが,学術情報の発信・収集に関するシステムが今後10年程度で大きく変貌することを予感させるものです。すなわち,研究成果を私企業が出版する雑誌に投稿し,研究に必要な情報もまた雑誌を購読することによって得る従来のシステムはいずれ破綻し,各組織の機関リポジトリのようなシステムを介して情報交換が行われるようになるのではないでしょうか。このような情報はある意味で公共性の高い情報ですので,私企業の営利にあまりにも利用され過ぎているのは不合理です。もっとも著作権や審査,権威付けなどの問題点も多々あり,実際にどのような形になるのか今のところ見当がつきませんが,いずれにしてもこの変化の波に乗り遅れることのないようにというか,むしろ変化の波に先乗りするくらいの気概を持って対処していく必要があるように思われます。
 このような大変な時代に附属図書館長という大役を仰せつかることになりました。もとより非力ではありますが,皆様方のご協力をいただきながら附属図書館の充実・発展のため邁進する覚悟でおりますので,なにとぞ宜しくお願い申し上げます。

徳島大学附属図書館長  
大学院HBS研究部教授 
際田 弘志 (きわだひろし)


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