【す だ ち】徳島大学附属図書館報 第33号
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○短期連載:今日の学術機関リポジトリの動向

(1)学術機関リポジトリの意味とメリットについて

電子ジャーナルの普及や大学紀要の電子化等により,インターネット上で居ながらにして学術情報にアクセスできる時代になりました。その中にあって最近いくつかの大学が「学術機関リポジトリ」なるものを公開しています。
この学術機関リポジトリは,大学の研究成果の効果的発信や社会貢献の機会拡大をもたらすものとして期待を集める一方,まだどんなものかよく解らない,登録の負担や著作権への対応が大変なのではないか,といった疑問の声もよく耳にします。
そこで,今回から3回の予定で,学術機関リポジトリについて最近の動向やその目指しているものなどを紹介し,疑問にお答えしていきたいと思います。
第1回は,学術機関リポジトリを構築する意味と期待されるメリットについてご説明します。

● 学術機関リポジトリとは何か
大学等の学術機関で生産された研究成果を収集,電子的に保存し,無料で発信していく電子版保存書庫(アーカイブ)のようなものです。これらの研究成果はインターネット上に発信され,CiNii等の学術情報ポータルやYahoo,Google等の検索エンジンで検索・利用できます。また,著作権に関する処理を終えたものを発信するので使用料などの問題は発生しません。

従来大学の研究者が研究成果をインターネット上で発表する機会と言えば,
☆学術雑誌(電子ジャーナル)に投稿
☆大学・学会・教員個人等のホームページに掲載
くらいでした。しかし,電子ジャーナルは商業出版物であるため,契約していない機関の研究者や一般市民・個人の利用は困難です。また,大学等のホームページは収集範囲や保存の継続性等に課題が残ります。これに対し,学術機関リポジトリは,学内で生産された研究成果を幅広く収集し,長期にわたって保存し,著作権処理をしたうえで無料発信していくところに特徴があります。

学術機関リポジトリに収集される情報は,学術論文・紀要論文が多くを占めますが決してそれだけに限りません。国内の事例を見ても,例えば会議発表資料・データなども登録されています。
→千葉大学学術成果リポジトリ(CURATOR) CURATOR Letter issue 4 (2007. 8)
http://mitizane.ll.chiba-u.jp/metadb/up/irwg8/CURATOR_4.pdf
また,教員が研究や教育の活動課程で作成した覚書や解説が注目コンテンツとなっている例もあります。
→広島大学学術情報リポジトリ(HIR) 「Monographシリーズ」
http://ir.lib.hiroshima-u.ac.jp/portal/hot/contents_1.html
このような多彩な教育・研究成果を発信できるのも,学術機関リポジトリの特徴です。

● 学術機関リポジトリを構築するメリットは何か
☆インターネット上で研究成果に無料でアクセスできる(これを「オープンアクセス」と言います)ことで,利用数の増加が期待されます。例えば,コンピュータ科学の分野では,より多く引用された論文はオープンアクセスである割合が高くなっており,しかもその傾向は年々強くなっているという報告があります。
→Steve Lawrence,“Online or Invisible?” Nature, Volume 411, Number 6837,p.521,2001,
http://citeseer.ist.psu.edu/online-nature01/

☆ダウンロード数等の統計機能により,研究成果がどれ位利用されているかを知ることができます。これにより自分の研究成果の利用件数がわかって驚いたことや励みになったことなどが紹介されている例もあります。
→北海道大学学術成果コレクション(HUSCAP) (左メニュー中程の「高頻度閲覧文献」) http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/
→同 加藤 大博「広報としての機関リポジトリ」
http://eprints.lib.hokudai.ac.jp/dspace/handle/2115/14589

☆地域社会への業績説明・成果還元を果たすのに有効です。前に述べたように,例えば電子ジャーナルでは利用できる人が限られますし,掲載対象も学術論文に限るため必ずしも研究成果全体を網羅できないところがあります。その点,学術機関リポジトリはあらゆる種類の研究成果を無料で公表していますので,地域社会に研究成果を説明する際,学術機関リポジトリの検索結果を示せばよいことになります。これにより地域社会への説明責任が果たせますし,ひいては大学のブランド向上へとつながっていきます。

次回は,国内の学術機関リポジトリについて紹介していく予定です。


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