「学術機関リポジトリ」?


一般には耳慣れないこの言葉が、今、大学図書館の間で大きな話題となっています。図書館関係の雑誌や集会の主要なテーマとして頻繁に採りあげられ、一昔前の電子図書館ブームの再来の感さえあります。ここでは、今日における学術情報をめぐる動向のひとつであり、近い将来どこの大学でも一般用語化していることになるかもしれない「学術機関リポジトリ」について、その概要を紹介します。


「学術機関リポジトリ(Institutional repository)」とは? まず定義を見てみましょう。
学術情報流通基盤の開発・整備を行う機関である国立情報学研究所によれば、「大学および研究機関で生産された電子的な知的生産物を捕捉し、保存し、原則的に無償で発信するためのインターネット上の保存書庫」、となっています。
また、コンテンツとしては、学術雑誌掲載論文、プレプリント、ワーキングペーパー、会議発表論文、紀要、技術文書、調査報告、学位論文、教材など、様々な電子的コンテンツが対象とされています。
要するに、研究者が作成したWordやPDFなどの文書ファイルをサーバに蓄積し、インターネットによって公開するシステムであり、その際、公開は無償(オープンアクセス)であること、情報検索等のため保存方式は国際規格に準拠していること、また長期的、累積的に保存すること、などが要件として求められます。さらに、こうして蓄積された情報は、先の国立情報学研究所などが運営する学術ポータルサイトのデータベースへ自動的に収集され、一括検索が可能となる仕組です。


ところで、このようなシステムのメリットは何なのでしょうか?
・研究者が研究成果等を学外に容易に発信でき、要するコストも少ない
・研究者が研究成果等を学外から容易に視認できるようになる
・商業出版社による学術出版の代替システムとなり得、学術情報入手のコスト減が期待できる
・大学の各種活動の社会に対する説明責任を果たすとともにPR効果がある
・大学の学術的生産物が長期的に保存・管理できる
などが挙げられています。成る程いいことずくめで、研究者にとっても、所属機関である大学にとっても、学術機関リポジトリは大きな可能性を有しているように思えますが、肝心なのは充分なコンテンツが蓄積され、ネットワークの規模が拡大すること、いわゆるスケールメリットが達成されることが必要です。これまでに例のない情報提供を研究者に依存するシステムであり、十分に機能するためには機関(大学)をあげた組織的な取組み、研究分野ごとの連携が必要条件になります。
現在、世界にはすでに400を超える大学のリポジトリがあり、主題や分野別のリポジトリも多数運営されているようです。国内では、学会を含んだ議論が展開されるとともに、いくつかの大学と国立情報学研究所による実験段階を経て、そのうちの一つである千葉大学が今年度から他に先駆け運用を開始し(注)、大学図書館界の注目を浴びているところです。
(注)千葉大学学術成果リポジトリ( http://mitizane.ll.chiba-u.jp/curator/


さて、大学図書館の注目を集めている理由は、その導入により既存の図書館の役割や機能が拡張されることによって、学内に新たな活躍の場、位置付けを得ることへの期待感があります。一時の電子図書館ブームが過ぎ去り、目新しい話題に乏しい中で、大学図書館がこれまで培ってきた学内に対する学術情報の収集・提供の窓口としての経験・知識・技術が、学外への情報発信の窓口としての新たな機能に生かせると思われるからです。実際、ここまで国内での推進役はいずれも大学図書館が果たしてきています。ただし、全学的な理解・合意が必要な事業ですので、実運用段階においては図書館だけで立ちゆくとは思えません。図書館を含む全学的な推進体制や組織が整備され、大学の情報戦略の中核に位置付けられることが鍵になると思われます。
国立大学が法人化され、教育・研究・社会貢献の各面において大学の情報発信が問われている今日、学術機関リポジトリは、その解決方法の具体策を提示している、と云えるかもしれません。国立大学が横並びの時代と異なり、各大学が独自に意思決定する今日にあっては、学術機関リポジトリの進展ペースは不透明なところですが、引き続き、本学附属図書館としては今後の動向を注視するとともに、学内への情報提供を怠りなく実施していきたいと考えています。