サマー・リーディング・リスト


アメリカでは大学や新聞・雑誌の企画などで、夏休みに読みたい本のリストを公表しています。学者や作家だけでなく、ビル・ゲイツやオバマ前大統領など、読書家で知られる各界の著名人のものもあります。日本でも出版社や書店が夏休みにおすすめの本をラインナップすることがありますが、大学でもこうした取り組みがあっていいのではないでしょうか。学生にとって長い夏休みは、暑いとはいえ、じっくりと読書するにはもってこいの時期でもありますので。

そこで今回は、「隗より始めよ」というわけで、まずは私から、「サマー・リーディング・リスト~夏休み後半に読みたい12冊」を紹介させていただきます。


  • 寺田寅彦『寺田寅彦随筆集』
  • 物理学者にして文学者だった寅彦の、二刀流の柔軟な発想に触れることができます。科学万能主義をいさめ、自然への畏敬の念を失わない姿勢に貫かれています。文理の垣根を越える、現代でこそ必読の書。


  • 高群逸枝『娘巡礼記』
  • 今から百年前に一人で四国巡礼に出た若い女性。彼女はその体験から後に女性史学者になりました。その心の遍歴を短歌とともに記録した、鮮烈な青春の書。


  • 城戸久枝『あの戦争から遠く離れて』
  • 戦争残留孤児として中国に残され戦後帰国した父を持つ筆者が、父の足跡を求めて留学し、調査した記録です。著者の城戸さんは愛媛出身で、本学総合科学部出身です。


  • 賀川豊彦『死線を越えて』
  • 貧民救済・防貧活動を展開し生活協同組合のもとを作った社会活動家の自伝的小説で、苦悩と情熱の葛藤が描かれた青春の書でもあります。なんと、その原点は徳島。時代に埋もれてしまった大正時代の大ベストセラー、今こそ読み直したい名作。


  • 多和田葉子『エクソフォニー』
  • 母語の外に出ている状態から、母語を捉えなおすことで、異文化理解にもつながります。グローバル時代における言語的な越境と想像力について目を開かされるでしょう。


  • 小田実『何でも見てやろう』
  • 英語もろくにできずにアメリカ留学し、そのまま世界周遊するという痛快人物の紀行記。留学を考えている人におすすめ。きっと背中を押してくれるでしょう。元祖バックパッカーものです。


  • 河合隼雄『影の現象学』
  • 心理学者・河合隼雄の名著。文学などに現われた「影」について考察し、人間の深層に迫ります。


  • 岡倉覚三『茶の本』
  • 日本文化論の古典。日本・東洋の美を「不完全の美」と看破し、世界にその意義を知らしめた。明治期に英語で書かれた名著です。


  • 谷崎潤一郎『陰翳礼讃』
  • 「陰翳」というものから日本文化を捉えなおす名著。明るすぎる現代社会、これを読めば日々の暮らしの中で照明を少し落としてみようと思うはず。


  • ドストエフスキー『カラマーゾフの兄弟』
  • 学生時代に一度は憑かれたように読みふける時期があってもいい、世界文学の最高峰。


  • ミヒャエル・エンデ『モモ』
  • 効率一辺倒の現代文明を批判する書としても読まれる、時間の本質を描くファンタジー。本屋では児童コーナーに置いてありますが、必ずしも子ども向けではありません。


  • ギュンター・グラス『ブリキの太鼓』
  • 戦争を庶民の目線から描く長篇小説。現代を考えるにはうってつけ。世界文学のモダン・クラシックとはいえ、映画の方が知られているかもしれません。


    日本の美を知り、未知の世界に出会い、歴史を振り返り、人間とは何かを考えさせてくれる作品ばかりです。皆さんが自分の美意識を磨くのに役立つとともに、これまでにない深い感動体験を与えてくれるでしょう。書店に置いてないものもあるでしょうから、ぜひ図書館に足を運んでみて下さい。