読解力・読書・新聞活用(「新入生にすすめる私のこの一冊」)


附属図書館長 吉 本 勝 彦
(歯学部分子薬理学分野・教授)

新入生の皆さん、ご入学おめでとうございます。現在は大学生活への大きな期待と少しの不安が交錯している時期と思います。

「教科書や新聞記事レベルの文章をきちんと理解できない中高生が多くいることが、国立情報学研究所の新井紀子教授らの調査で分かった」と昨年11月に報道されました。新井教授は東大入試突破を目標に人工知能(AI)の「東ロボくん」を開発したことで有名です。東ロボくんは言葉の意味を理解していないのにもかかわらずセンター試験で上位2割に食い込みました。この結果から、「文意を読み取ることができないAIが良い成績を取れるのなら、人間も意味を分からずに試験を受けているのではないか」の仮説のもと、一般的な文章を正確に読めているかどうか調査したのが上記の結果です。中高生は文章の意味が分かっていないのに、東ロボくんと同じように知識だけで答えているのです。文章や資料から「情報を取り出す」ことに加えて,「解釈」「熟考・評価」「論述」することを含む「読解力」の育成には、読書力が不可欠であることは言うまでもありません。

中高生に限った問題ではなく、大学生や若い社会人も読解力低下が指摘されています。ソーシャル・ネットワーキング・サービスの普及による短文のコミュニケーションの広がりにともない、一定量の論理的文章と接する機会が減少しているのが一因と考えられています。ちなみに学生の49%が1日の読書時間が「0」なのに対し、スマートフォン1日平均利用時間は162分です(全国大学生協連・第52回学生生活実態調査、2017年2月)。

読解力の向上には語彙力の強化や文章の構造と内容の把握が必要ですので、新聞も読むことを勧めます。新聞が取り上げている内容は多岐にわたっており、それまで関心のなかった分野についても「紙面での偶然の出会い」で情報を得ることができます。

『僕らが毎日やっている最強の読み方;新聞・雑誌・ネット・書籍から「知識と教養」を身につける70の極意』 (池上 彰、佐藤 優著、東洋経済新報社、2016年9月)は、新聞・雑誌・書籍などから情報をどのように入手すべきかを示した本です。『ネットにつながらない「不自由さ」が知的強化になる。まずは1日1時間のネット断ちから始める』、『読書時間は「心がけ」と「ネット断ち」で作り出す。「いつか時間ができたら本を読もう」では読めない』などが提案されています。まずは実践してみてはどうでしょうか。


※「新入生にすすめる私のこの一冊」」は,徳島大学の教職員が推薦する本を紹介した冊子です。PDFはこちらをご覧ください。

新入生にすすめる私のこの一冊(平成30年度)